今回のブログでは不動産業界のサイクルについてお話ししたいと思います。このコンセプトは経済全般でも良く用いられますが、不動産市場においても同様に当てはまります。今回は、現在の北米、特にバンクーバーの状況を参考にしながら、このサイクルについて説明します。
1)不動産市場ー4つのフェーズ
まずは、サイクルには通常4つのフェーズがあります。このコンセプトは、あるカナダの不動産融資会社が提唱しているもので、考え方は国際的にも共通しています。典型的な形は下記の4段階から形成されおり、。不動産市場も他の業種と同様に、マクロ的経済の影響を受けるため、下記表の流れは変化します。
回復:
経済が回復傾向にあり、不動産に対する需要も上昇しているフェーズです。需要の増加により価格も上昇傾向にあり、この時は売り手(賃貸舎)市場となる傾向にあります。また、建築でも、回復時は着工件数が増え、新規物件の導入が見込める時です。
拡大:
この段階では市場は好調で需要の増加と共に供給も増加傾向にある状況です。この段階が長ければ長いほど、一般経済へのプラス的影響は大きく経済の成長につながります。しかし不動産の場合には新規物件の供給にも時間が掛かるため、タイムラグ(遅れ)が生じるのが一般的です。また、拡張の後半では、賃貸の成長率が減速したり、空室率の上昇や賃貸契約が締結されるまでの期間が伸びたりするのが、この時期の終わりを告げる兆候となります。
後退:
不動産後退期ではマクロ経済でも減速がすでに始まっており、空室が埋まらない事で賃貸者は賃料値下げ、フリーレント期間の導入、テナント工事への援助金を出す傾向にあります。建築サイドでも、後退後半段階(経済減速が継続すると思われる場合)ではプロジェクトの一時的停止や竣工のタイミングを再度見計らう等の調整も行われます。
修復:
一般的には「後退」と「修復」はリセッション(経済後退時期)になります。しかし、修復時は後退と違って、将来的展望が見え始めている時期を指しています。この段階(特に後半)では、早期に回復への兆しを見計らった投資家や企業などが購入や賃貸を開始する時期でもあります。このグループの勢いや一般経済の流れの速度でも修復段階の終了に変化が出てきて、次のサイクルの勢いや期間に影響をもたらします。
2)現在のバンクーバー市場
では、現在のバンクーバー市場はどの辺に位置しているのかについて、お話ししていきたいと思っています。通常は各セグメント(オフィス、インダストリアル、住宅など)はさほど変化なく進む事が多いのですが、現在は各セグメントが全く独立している状況です。
インダストリアル
インダストリアルは現在最も需要が多く、停滞する傾向は全くありません。コロナ禍によって、消費者の買い物傾向が大きく変化し、インダストリアル物件への需要も大きく変化したことから、需要は現在も更新しており、賃料料金も新記録を更新中です。現状は港都市の土地事情が悪く、新規物件の建設が困難な状況です。
よって、典型的な平屋倉庫物件では賄えず、現在は複数階型物流倉庫の建設が進んでいます。軽製造業倉庫においては、すでに複数階式施設の建設が盛んに行われています。今後もこの需要と供給のアンバランスは継続する見込みで、当分は拡張段階(しかし、供給面からするとまだ回復段階)が継続する見込みです。
オフィス
オフィスは、その一方で、近年で最も困難な時期にあると言っても過言ではありません。コロナ禍により、外出が制限され、人々の働き方も大きく変化しました。現在の問題は在宅でも仕事が対応可能なだけでなく、オフィス出社が必須ではないかもしれないと思われている事です。経営者などは出社を促進または必須にしていますが、未だ確実な証拠が提示されていない為、社会的動向には行き着いていません。
よって、バンクーバー市のダウンタウンのオフィスの空室率はサブリースを含めると22%まで上昇しており、賃貸者からはフリーレントやテナント工事用の補助金を出すなど、後退段階の現象が出ています。ただ、複数の企業のRTO(リターンツーオフィス)が開始され始めているので、段階的にも修復と言われるかも知れませんが、未だ空室率や家賃が上昇する兆し、もしくは降下が停止していないので、修復ステージには辿り着いていないと思います。
住宅
住宅は2022年中の金利の高騰により、購入者の購入意欲が消極的になった事を理由に、売り出し物件の在庫が激減しました。また、今年より外国居住者による住宅購入が不可能になった事で、一部の地域では購入候補者が激減した事で売却成立物件数は著しく減っています。ただ、外国居住者に人気な地域は富裕層エリアな為、地元購入者が求めている地域とは異なっています。現状でも住宅状況は供給量が少ない事には変わらない為、初回購入者や「低価格」住宅を求める地域では、依然として各物件に複数のオファーが出ている状況です。よって、条件的には上記の4フェーズに当てはまる段階はありませんが、市場意欲的には回復の始まり頃に当てはまると思われます。
3)まとめ
この様に不動産サイクルはどの市場でも概ね存在しますが、すべてのセグメントが同時期に同じ段階にあるとは限りません。また、各段階の期間も各セグメントによって異なります。各セグメントが異なる状況にあるとしても、バンクーバーの魅力や市場性を考えると、総体的にこの市場は今後も成長していくと思います。よって、バンクーバーの投資市場としての世界的認知度は無名に等しい状況ですが、市場サイクルの中でもまだ回復(無名で需要が今後更に上昇するという意味で)段階にあると位置付けています。
KM Pacificグループ代表取締役社長
枡田 耕治
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