テナントとの問題も不動産運営をしていれば色々出てきます。ここではカナダバンクーバーの物件で実在したテナントさんとの経験をお話ししたいと思います。
1)経緯
1270 Frances Streetを再開発する迄の約2年間用のテナントを探していました。通常でも不動産賃貸には3年間が最低で、延長オプションがない物件にはなんだかの問題(理由)があるテナント以外は選択肢に入れないのが現実です。我々としても、優良信用の企業が入ってくるとは思っていませんでした。多分、お金のないスタートアップや一時的にスペースを探している企業などになると思っていました。
問題を起こしたテナントもスタートアップで企業履歴が殆どありませんでした。ただ他の場所から移転希望とのこと。もっとこの企業についてデューデリを仲介に要請するべきでしたというのが、アフターでの正直な気持ちです。ただ、その時も仲介は利便性の向上という事だったので、半信半疑で納得しました。
またこの零細企業の登録先はカナダの東海岸のプリンスエドワードアイランド。企業登録情報を請求するにも遠すぎで約3週間かかってしまいます。ここでも警告旗を短期間賃貸という理由で無視してしまいました。
2)直面したトラブルとその対応
As-Isという現状のままの賃貸になったのですが、入居して数ヶ月で賃料の支払いが遅延し出しました。最初は数日だったのですが、結局は季節的業績との事で、2ヶ月に一回纏めての支払いになり、その後は支払いが滞りました。賃貸借契約書はNNN(トリプルネット)契約だった為、テナントが全ての経費を直接支払う事になっていました。なので、大家である弊社としても光熱費や固定資産税の請求はなく、不幸中の幸いという事で家賃だけでした。
我々としては、遅延し出してから相当の時間を費やしており、全ての会話を記録したり、議事録化するなど、膨大な労務的経費がかかっていました。もちろん現地入りして本人と話すこと、社員にお客数や給料支払い状況のヒアリングなども含めます。しかし、契約書で賃料支払い不履行になり次第、強制退去が出来ると書かれているのですが、BC州の法律ではテナントの支払い不履行を最初に確定する必要があるとなっており、実質的にはアメリカの様に数日遅延になったからといって、強制退去させる事は出来ないとの事でした。正直、ここまでの意図的踏み倒しはカナダでも初めてだったので、学習(経験)不足でした。よって、最終的強制退去を開始するにも最低でも3ヶ月かかりました(1ヶ月目で敷金充当、2か月目末で支払い不履行確認、3か月目で不履行の最中にようやく強制退去執行可能)。
3)トラブル対応のプロセスと判明した事実
強制退去を遂行するにも、専門弁護士を雇い、弁護士の指示の元、賃貸未払い通知書を書留で送付し、受取日時の記録を取得。そこから1週間の猶予を与え、Bounty Hunter(法的に認められた執行人)が、早朝に物件に乗り込み、内部の物を全て差押える事で、押収物資の転売権利が得られます。ただ、弁護士からの通知書の中にはPremises Repossession Date(強制執行日)が記載されている為、債務不履行テナントは執行日までに夜逃げしており、賃貸スペースは空室でゴミだけが残っているだけです。また、もし追い出すテナントの顧客の物品が残留していた場合には、我々が差し押さえる権利を得ますが(同時に執行人はスペース内の物品を全て差し押さえて引取る義務があります)、テナントの顧客と弊社は契約関係にない為、弊社がテナントの顧客から訴えられ物品の返却及び損害賠償の請求が結末になります。よって、今回のテナントは高級車を取り扱う企業だったので、顧客の車がなくて本当に良かったと思いました。
執行人を呼ぶ事は初めての経験だった為、同席したいと申し出しましたが、弁護士の指示で侵入後に参加する事にしました。最終的には、執行人が残留物品の全てを写真に取り、リスト化し、私が大家を代表して強制退去執行完了書に署名をしました。その後は新しくなった鍵を受け取り、スペースを退去し、我々の賃貸スペースの取り戻し作業が終了した事になります。ただ、建物の全ての入り口には強制執行した事に対する通知書の掲示が義務付けられる為、次のテナントの内覧には良く見られません。
また、執行前に弁護士に調べてもらい明らかになった事は、今回のテナントは1〜2年おきに企業名を変更して賃料を意図的に踏み倒してきた常習犯でした。弊社の場所に来るまでにも2箇所で前科を働き、弊社のスペース後にも新規ロケーションで再度ビジネスを始めたと聞きました。BC州ではオーナー名で企業歴が調べられない為、名前を変えてしまえば弁護士の権利を使って調べない限り分かりません。また、企業の登録場所が州外で行われていた事もこの様な犯罪を犯しやすい状況を作ったとの事です。
4)学んだこと
結局のところ、この強制執行でかかった費用は次のとおりです:
1. 家賃2か月分(敷金充当後)
2. 弁護士費用
3. 強制執行人依頼費
4. 事務経費
今回学んだ事は、この連続的な意図的詐欺行為は稀なものの、候補テナントの経歴や企業については調べる事が必須だと思いました。
KM Pacificグループ代表取締役社長
枡田 耕治
YouTube: KM Pacificオフィシャル
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