今回は、急速な住宅不動産不足に対抗する策として用いられている「離れ」建築についてお話ししたいと思います。
1)「離れ」建築とは?
以前にもお話しした様に、今まで戸建住宅が主流だったこの街でも、幹線道路沿いには大型マンションなどの建設ラッシュが起きています。この戸建住宅から離脱した住宅供給策だけでも、住民からの不安と反対は大きいものでした。
現在ではこのトレンドはさらに進んでおり、今後のバンクーバーの住宅戦略は複合住宅がメインの供給源になると言われています。
その様な中、現在の高い生活コストを補う目的も含め、バンクーバーでは一軒家における「離れ」とも言える小型一軒家の建設が盛んになっています。一般的母屋のサイズが260平米から350平米ぐらいの中、これら離れは60から90平米ほどが一般的サイズだそうです。
建築コストも$500,000(約4,500万円@$1=90円)してしまう為、決して安易に実行するDIYプロジェクトではありません。また、これらも他の住宅建設同様、行政の建築申請プロセスを通らなければならないので、建設着工までも時間はかかってしまいます。
今回配信されたニュース記事は、ブリティッシュコロンビア州立大学教授2名によって行われた調査結果として発表されたものでした。
2)「離れ」建築の影響
調査結果によると離れの建設は地域によって母屋の資産価値への影響が変動するという事でした。戸建住宅が多いブリティッシュコロンビア州立大学近辺のバンクーバー西地区では(注:西バンクーバーとバンクーバー西では異なります)平均して2.8〜3.8%の資産価値減少が起きているそうです。富裕層住宅地域ではさらに4.7%も価値が減少しているそうです。
これら離れは母屋の敷地内(裏庭など)に建築される上に、2階建てになる事が殆どです。
よって、裏庭などは自分達のブライベートエリアで、覗き込まれる雰囲気を醸し出す離れはプライバシーの侵害と理解する人が多く、購入時には懸念事項になるとの事です。また、一軒家は所有者が自分の生活のために住む家屋が一般的ですが、離れには賃貸として利用する人たちが一般的です。賃借人による所有物件地区「侵入」との解釈が一般的に存在しているとUrbanHive誌は報告しています。
ただ、この傾向は表面的に矛先が賃借世帯に向けられるものではなく、あくまでも近隣所有者のうちに秘められる「精神的不都合」になっている為、社会問題に発展する様なことではありません。
ただ、差別とも言えるこの解釈は、富裕層地区に建造されている場合には特に多いとの事です。
3)地域によって異なる「離れ」建築の影響
やはり一軒家が3億円以上する現在のバンクーバー地区では家自体が大きな資産になり、得られる「誇りと楽しみ」は所有者に特別な意味と「権利」を与えるものになってしまっているのかもしれません。日本の住宅事業からは考えられない解釈ですが、私も子供の頃一軒家に住んでいた時には、隣接する土地を覗き込む様な木登りや木の中に家を作る様な行為は、ご近所さんに失礼なこととして注意された事を覚えています。
よって、これら地域では景観を保つ目的もありますが、裏庭などの境界線には葉や枝の多い背高い樹木で自然の壁を作り出している家が多くありました。
また、離れを建設する事で殆どの場合が駐車場を潰す事になり、所有車を道に駐車する事から地域景観の低下と見られたり、学校の生徒人口増加を懸念する傾向の現れではないかと説明しています。よって現在社会的問題になりつつある「Not In My Back Yard精神(「私の裏庭ではやめて」精神)」が表面化した結果だろうとレポート作者は話しています。
同時に72%のバンクーバーにおける離れが建築されている東バンクーバー地区では、戸建も多く存在しますが不動産価値の変動はなかったそうです。
ではなぜ、この地区には現れなかったかを考えると、価格的にも地域の評判的にも東バンクーバーはバンクーバー西地区より低価格帯地域と見られており、住宅コストも一億円相当低い事にあると思います。よって、富裕層住民の間に見られる様な現象や解釈が少ないのと同時に、売却価格を考える前に資産向上を優先した結果だと思います。
同記事では、離れの建設により販売価格は地域によって多少減少するものの、固定資産の査定額は約$259,000(約2,300万円)の増加につながっているとの事です。
4)まとめ
バンクーバー市参事会では今後も離れの建設を増やす事で、現在の住宅不足に対抗していくと発表しており、2027年までに27,000戸の建設を目標に立てています。うち4,000戸は離れの建築から来るものとしています。2017年までに竣工済みの離れは全体の供給住宅戸数の2%を占めており、2013年以降は全体の供給量の40%を占める結果になっています。
よって、今後も離れや複合住宅はバンクーバーの一軒家住宅地区に増えてくるものと思われます。そして、既に変化しているバンクーバーの住宅事情及びスカイラインは今後も継続して変化し続けるものと思われます。
KM Pacific Investments Inc.代表
枡田 耕治
YouTube: KM Pacificオフィシャル
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