オレゴン州およびポートランドのマーケット情報
基本情報
オレゴン州、及びポートランドの概要
ポートランドは緑豊かで今後さらに発展する都市
太平洋岸北西部ではワシントン州シアトル、カナダのバンクーバーに続いて3番目に人口が多い都市です。2021年7月時点でのメトロポートランドの人口は約210万人、ポートランド州立大学の国勢調査によると、2017年から2020年は人口増加率は継続して1%以上を記録しており、その中でも22歳から39歳の「働く世代」が人口増加に最も寄与している層です。ただし、2021年は0.2%の減少でした。この数年ぶりの人口減少は、COVID-19による出生率を上回る死亡率によってもたらされただけではありません。
経済的にすでに栄えた国内の大都市が人口減少を経験する中、「2020年から2021年にかけてお隣にあるアイダホ州の人口増加が2.9%で全米トップだった(アイダホ労働局)」ことを考えると、その背景にはCOVID-19による景気後退を受けて相対的に生活費の高いポートランドから生活費の安いアイダホ州に人口が流出したと予測できます。ワクチンの普及によってCOVID-19の脅威が弱まり、景気回復の兆しが見えてはいますが、ロシアのウクライナ侵略により卵から車まで身の回りの物価が軒並み高騰している現状では、生活費の高騰を引き金に一度流出した人口が2022年以内に再流入すると考えるのは楽観的だと思います。
ポートランドのGDPは、COVID-19によって打撃を受ける前の5年間は着実に成長してきました。しかし、オレゴン州経済ニュース局によると、2019年から2020年にかけてサービス業や観光業の低迷が1.02%の経済成長率の減少に影響を及ぼしましたが、雇用の増加と安定した家計所得が引き続き消費者支出を支えています。この中でも実質GDPの成長には、メイン産業5位の製造業が最も大きく貢献しました。
ちょっとここだけの話
ポートランド行政府は「2040 Growth Concept」を掲げており、9つの地域の開発パターンの枠組みを作ることで、効率的な工業用地と住宅用地の利用を前提に経済成長の拠点を絞り、そこを重点的に開発していく方針です。ポートランドのダウンタウンはこの新しい構想においてそれら9つの商業圏の中心であり文化的ハブになります。今後20年間の経済成長を軸に、交通インフレや都市貨物輸送ルートや手段の開発も同時に行うことで、内側から発展していく太平洋沿岸部の新たな経済の要所になっていくと考えられます。
しかし、不動産投資の観点からは、地域開発のパターン化は用地変更の申請やそれに伴う行政の手続き待機時間の長期化、さらに言えば開発計画に沿った行政からの要望対応によるプロジェクト期間の遅延も懸念材料として考慮する方が良いでしょう。類似した用途の物件が区画内に立ち並ぶ中で、テナントが「ここに入居したい、長く賃貸契約を結びたい」と思うような長期的な機能性やデザインなどをプロジェクトに取り入れることができる熟練した不動産開発業者が必要になってきます。
ポートランドの経済状況
オフィス不動産市場
ポジティブな傾向にあり
過去3年のオフィス市場
*データ:Colliers
ポートランド CBD 実質吸収量(1,000平方フィート)
*データ:CBRE
ポートランドのCBD(Central Business District)の平均募集賃料は、2020年Q1のクラスBを除いて緩やかな下降トレンドになっています。引き換えに空室率は全体的に上昇トレンドとなっています。テナント需要の内訳は、テクノロジー分野(34%)、ビジネスと金融サービス分野(18%)で、半数以上を占めるホワイトカラー業種によるリモートワークをきっかけにオフィス需要が減少したことと、景気後退と経済の先行きが見えないことからCBDで高い賃料を払って賃貸を継続することに消極的であったことがこの空室率の上昇トレンドに反映されています。2020年Q1のクラスBは一時的に賃料及び空室率においてポジティブなトレンドを見せましたが、これはCOVID-19による景気後退がどのくらい続くかが不透明な中で、短期的にクラスをグレードダウンし様子を静観しようとする動きが反映されたと考えています。
実質吸収量においても全体的なトレンドはマイナス傾向ですが、2022年Q1ではワクチン接種率の安定化によるマスク着用義務の解除やソーシャルバブルへの抵抗感が薄まったことにより、前年同時期の約38万平方フィートのマイナスから約14万平方フィートのマイナスまで半分以上が回復しています。ただし、クラスAのように高品質で求心力のあるアメニティを持たず、なおかつクラスCほど家賃が安くもないクラスBでは実質吸収量の回復が鈍化しています。全体のトレンドとしては、経済回復と企業先導の従業員の会社復帰に対するポジティブな期待が表れていると捉えています。
過去3年のオフィス市場
*データ:Colliers
ポートランド CBD 実質吸収量(1,000平方フィート)
*データ:CBRE
インダストリアル不動産市場
2040 Growth Conceptに注目
過去3年のインダストリアル市場
*データ:Colliers
ポートランド 実質吸収量
*データ:CBRE
ポートランド 実質吸収量
*データ:CBRE
COVID-19により空室率の上昇は見られたものの、E-Commerceの躍進から来る継続的な需要により、空室率の上昇は8%の範囲内で推移しており、依然として需要は高いと言えます。2020Q1には平均賃料の上昇も見られますが、その後は景気後退からくる需要減少に抗う形で緩やかな下降トレンドを見せています。
Central Cityエリアは2019年以降の新規建設が行われておらず、1,200万平方フィートの限られた供給量の中で高い需要を維持しています。市内のNorth/NorthEastエリアは、コロンビア川とウィアメット川に沿うようにして広がっていますが、この辺りは湾岸の重工地帯に区分されており、主に大きいロットの物件が沿岸部を占め、その内陸部分に軽インダストリアル物件が区分されています。
もう少しマクロで見てみると、COVID-19の景気後退と同時に、ポートランド市外のSouthEastエリアの需要が高くなっています。この辺りは比較的賃料が安く、3,000万平方フィートほどの供給に対して需要が集中しており、それによって過去3年間で唯一家賃が上昇トレンドを見せています。このエリアは市内から高速道路で30分から1時間、特にクラッカマス(Clackamas)周辺は205号線の東側に向かってディストリビューションセンターと小型の倉庫物件が混在するインダストリアル地区になっています。E-commerceの発展により倉庫や流通セグメントの需要は今後も高まっていくと予測されますが、最終顧客の生活圏内まで1時間以内であれば、ダウンタウンやNorthエリアに続くインダストリアル発展候補地としての可能性を大いに秘めています。
インダストリアル市場のポテンシャルですが、市内の東側は住宅地が広がっており、さらに北側はコロンビア川で拡張不可能、北西側はウィラメット川に沿うようにして観光地でもある広大な森林公園が広がっている事と自然環境保護を宣言している行政の方針から、南に向かって成長していくと予測します。一見、ポートランドにはまだ手の付けられていない開発可能な緑の山々が広がっているように見えますが、前述した通りその多くは自然公園や州立公園として保護されており、開発できる用地は日に日に狭まっています。開発、再開発においてはゾーニングに関して行政による2040 Growth Conceptの動きも注意深く見守っていく必要があります。
過去3年のインダストリアル市場
*データ:Colliers
ポートランド 実質吸収量
*データ:CBRE
種類 総供給量(1,000平方フィート)
*データ:CBRE
まとめ
「投資」の候補地として価値あり
ポートランドは行政の政策と雇用の回復から今後も成長を続けていくと考えられます。自然と調和し、再生可能エネルギーへとシフトしながら発展する都市は、世界的な気候変動やSDGsへの関心が高まるにつれてポートランドの付加価値として存在感をさらに増し、都市部や国外からの移住者にとって大きな魅力になります。また、急速に発展しているIT産業が更なる経済成長を後押ししつつも、カリフォルニアほど高騰していない現在の不動産価格のバランスから、「投資」の候補地としてはとても面白いと思います。