今週は先週お話ししたマクロ経済への影響を掘り下げ、バンクーバー不動産市場に対しての影響に特化してお話を進めて行きたいと思います。このブログを執筆している時点ではQ2市場ニュースレターの調査を始める前になりますので、このブログでは私が個人的に感じている市場状況や弊社の協力会社であるColliers社からの情報を元にお話ししたいと思います。

1)コロナ禍の賃貸支払い状況

市場内の精神的雰囲気はコロナが話題になり出した2〜3月ごろの感染からくる将来的不安はだいぶ回復し、前向きな姿勢が徐々に戻りつつあると思います。しかし経済における将来的不安はまだ拭い切れたものではないと思います。正確に言えば、「不安」と言うより、この先事業を継続する上での体制と必要な対策がまだ見えないという、未知に対してどう施して良いのかが分からない歯痒い状況下にいると言うのが現状だと思います。よって、企業でも不動産に対しての需要をどうするのか、リモート環境が定着する中、現在のスペースが継続して必要なのかなど、答えの出ない疑問が多いのが現状です。その様な中、7,100社のテナントを対象としたColliers社の調査では、国全体で21%の商業テナントが賃貸支払いへの援助を大家に要請し、うち23%のテナントに対しては、5月末時点でなんだかの援助が大家より与えられたそうです。23%の振り分けは、オフィス業界が11%、インダストリアルでは14%、リテールでは18%です。期間的にも3ヶ月間(46%)が一番多かったとの事でした。ただ、これは政府提供の賃貸支払い援助政策ではなく、あくまでも大家とテナント間の個人的承諾の結果になります。ただ面白いのは、7,100社の調査対象企業をサイズ別に見ると、申請し援助が承諾された確率は全てのサイズクラスで均一な13〜14%でした。

また、月別の賃料支払いを比べてみると、4月には57%のテナントが50%以上の家賃を支払っているのに対し、5月では52%のテナントが50%以上の家賃を支払っています。また、全く支払っていないテナント数も4月は34%だったのに対し、5月では39%までにしか増率しておらず、利率的にはさほど変化がなかった様に思えます。これは5月には政府の助成金制度が導入された事を考えると、その影響は大きかったと思います。因みに、この制度は4月の家賃までの遡りを許されていたので、4月分に対してはのちに政府より支払われた形になっています。

2)弊社テナントと政府の助成金申請

弊社の場合では、三社いるテナントの中の一社が家賃支払い延期を要請してきました。ただこのテナントは入居当初から支払いが不安定だったので、事業の計画面で問題があったのではないかと思います。その他二社からは政府からの助成金の申請を要請され、うち一社については既に申請2週間以内に、家賃の半分が弊社の口座に振り込まれました。この申請プロセスは先週お話ししたCanada Emergency Business Accountの申請より複雑で、テナントと大家の承諾書や両社と政府との特別契約書への署名などを要求されるものでした。大まかな流れは、合計家賃に対して4〜6月までの家賃の50%を政府が片持ちし、残りの50%をテナントと大家で折半する仕組みになっています。よって、痛みの分け合いの様な結果になり、大家としても25%の賃料の減収を求められました。政府からの説明としては、この援助がなければ、テナントが倒産(もしくは支払い不可能)になり、家賃が全く入らなくなるよりは、75%の収入をキープできる方が良いだろうと言うものでした。もちろん、全く収入がないよりは良い事ですが、これは勇気のいる同意だったことは言うまでにもありません。6月までだった政策も当初の計画を延長させ、現在は7月の家賃も含まれる様になりました。現時点では8月分の発表はまだ出ていませんが、延長される可能性も濃厚になっています。また、この様な助成金に応募出来ない賃貸借契約では、上記に既にお話しした大家とテナント間での家賃支払いの一部免除、若しくは契約期間の延長を導入し、一時的な家賃支払い免除などが行われました。

融資を保持する物件所有者に対して、多くの金融機関が融資の一時的返済を中断する代わりに融資期間の延長を取り入れたり、発表された期間中の金利払い分の帳消しなども発表されました。ただ弊社の様に再開発などの短期プロジェクトを目的とした、金利支払いのみの融資には助成金制度が取り入れられる事はありませんでした。

3)不動産売買の状況

不動産売買面においてもコロナ発生当時の4月ごろは全てが著しく変わりました。内覧や対面式営業は全て強制自粛させられ、3〜4月の不動産売買は完全にストップしました。その後は「Wait and See(待機)」という状況が続きました。仲介業者からの話では、この期間は電話業務のみが行われ、実際の仲介活動はストップしていたそうです。契約が締結されていた物件でも、デューデリ用の業者の営業が一斉に自粛を虐げられ、契約通りのデューデリは行われる事はありませんでした。

弊社の物件売却契約交渉でも30から45日間でデューデリが行われるのが普通ですが、今回はこの様な状況を加味し、90日間に延長され、30日のクロージング期間も60日間に延長されました。デューデリ期間が始まった頃は、本当に日々どの様なプロセスになるかも予想が掴めず、弊社が保有していた調査結果書類を全て無償で提供し、購入者の調査を期限内に行う協力が必要でした。現在はリモートでもクロージングが日程内に遂行可能と予測できますが、ここまでくるのも本当に日々冷や汗を掻いていました。

Colliers社の各企業の事業再開についての調査では、政府主導のCOVID-19政策に順応する為に、経費が中央値で約15%上昇する見込みだそうです。商業(リテール)の場合にはこの費用はさらに上昇し、25%になるものと見られています。また、殆どの企業がこの増額に対して対応策が定かでない様です。決断した企業の半数はコスト削減を掲げ、その他の19%においては値上げで対処するとの事です。また、多くの政策は経済全体に一般化しすぎている為、直接関連しない政策上の対応に追われる始末になっている事も多くあり、無駄が出ています。

4)日々の事業運営と今後のオフィス需要

日々の事業運営においても、著しい変化が出ている事はすでに別のブログでもお話ししましたが、多くの企業ではハイテクやリモート勤務体制を取り入れる姿勢を見せています。ただ、経営者への調査では生産性が平均で22.6%低下した事を訴えており、これはGlobe and Mail紙が発表した生産性低下の21%に似た数字になっています。

また、将来的な物理的オフィススペースについては33%の解答社が「変化なし」と答えているのに対し、47%は「減る」予測をしています。「減る」と答えた企業の多くでは約半分のスペース解約を考えている様です。Colliers社内の独自分析では、約8.5%のオフィススペース需要の減少が2028年まで継続すると予測しているそうです。中でも最大の降下は今後2〜3年の間に起こるとのことです。

ここに書き出した影響も全てではないと思いますし、これからも市場は変化し続けると思います。しかし、不動産市場参加者の一人として、このCOVID-19で今後の不動産市場は大きく変化する事間違い無いと思います。具体的には、1)ビルのHVAC (Heating, ventilation, and air conditioning)等のインフラが入居判断の焦点になり、2)CBD(Central Business District:ダウンタウン)より人口密度が低い環境が重視され、3)ビルのアメニティー(フィットネスなどではなく、駐輪場や隔離されたシャワー)が今以上に重宝され注目を浴びる点になると思います。

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