今週は具体的な例を用いて家族問題の紐解きについて、さらに深くお話ししていきたいと思います。ここの例は実在する家族のケースですが、一部はフィクション化してご家族の詳しい情報を開示しない様にしてありますのでご了承下さい。再三各ブログの中で申しておりますが、この家族内の問題の紐解きプロセスは決して事業を行っている家族だけが直面する問題ではありません。よって、このケーススタディーの中から読者の家庭でも応用できる項目があれば、嬉しく思います。
ケーススタディー「継承の話し合いを拒む経営者」
さて、今回のケーススタディーは戦後に設立された家業ご一家です。社員数は20数名で現在30代の3世代目が家業に入り、取締役として貢献されています。現経営者は3代目の父親で70代半ばです。健康で日々会社に出られており、直接の指示を出しています。3代目には妹様がいらっしゃいますが、経営には携わっていません。
1)バックグランド
今回のご家族のお悩みは、70代の経営者がワンマン経営スタイルをとっており、健康状況も良好と言うことで、家業の継承についてご家族とはまだ話されてなく、今後の事業継続についてと経営上のリスクマネージメントが出来ていない事です。3代目の性格も力強い2代目の前では、ご自分なりのお考えを持ち家業の問題点を理解するも、カジュアルな会話を持つ関係にはありません。また、2代目も70代ともなると、忘れやすく、体力の低下が見えてきました。のちに分かった事ですが、2代目も永住的には働けない事をご理解されており、自分の存在と権威を維持しながらもどうやって継承について息子さんと話すかを模索されていました。
ここでさらに重要なのは、2代目の存在と権威維持の必要性がどこから来ているのか?なぜその維持が必要と思われているかを紐解く事でした。それを理解した上で、息子さんやご家族との話し合いを始めるという事でした。存在感あるお父様ですから、ご家族の意見はほとんど聞き入れず今までの家族関係が成り立ってきた事はお察しされると思います。お父様としても、元は創業者から引き継いだ家業ですが、経営状況は健全ではなく、相当のご苦労をされたそうです。銀行との折衝や他企業との上下関係でも苦労され、全てご自分で対応しようとする事で、ミスが出て、なお一層ご自分だけを信じ抱え込むスタイルを持つ様になったそうです。
息子さんは父親を反面教師とでもいう様に、トップダウンの関係の限界を目の当たりにし、チームワークに焦点をおいたスタイルを持っていられました。彼はご自分の性格にも助けられ、社員との関係はよく、経営家族と社員をつなげる重要な役割を果たしていました。ただ、父親に社員の問題を打ち明けられない事で、息子さんが抱え込む問題も多くありました。
2)プロセス
この様な状況の紐解きとしては、先ずは依頼人と時間をかけて話す事です。このケースでは2代目の息子さんです。この場合も現状だけを聞くのではなく、わかる範囲での家族の歴史や生活についてお話し頂くことです。そして、最も重要なのが依頼人の心の中を聞き出す事です。もちろん、息子さんからの話は一面にしか過ぎません。なのでその事を理解して概要を聞く必要があります。息子さんの心配は、2代目が元気な間は良いが、今後の事業継承や経営責任の分担についてのリスクヘッジをどうするかという事でした。
依頼人の会社及び家庭の人間関係を把握する事で、このご家族の力関係が理解出来ます。特に誰なら誰と話せるかなどの信頼関係を理解する事は重要です。特に今回の様なワンマン経営者の場合には、対等に話せる人を探すのは困難です。しかし、顧問弁護士や相談役などはその役を買って頂ける場合が多いです。それが特に家業の場合には。協力して頂けるかどうかで、アプローチも変わってきますが、この場合には弁護士先生と2代目の関係が良好なために、当初のアプローチをかけて頂くことに賛成して頂きました。私どもはアドバイザーですが、正面からの特攻隊的なアプローチが正解とは思っていません。私たちをご紹介頂くという形で会話に入れて頂く事でスムーズに入れることも多くあります。
今回の私どもの入り方は、弁護士先生からお父様に「息子さんが顧問弁護士先生に将来について相談された時に、このアドバイザーを紹介してきたので、話だけでも聞いてみないか?」でした。もちろん、即2代目が心の内を開示する訳はありません。時間をかけてご家族のこと、家業の歴史や考え、今までの苦労などを勉強させて頂くことがまず大事だと思います。そして、大切な事は、我々は世代交代を勧めているのではないという事をちゃんと理解して頂く事です。
また、このプロセスで一番大事な事は、2代目の心の内に入る事です。その為には我々を信頼して頂く事。信頼して頂く為には、我々が正直に素直に対応する事です。私個人の事もお話しし、バックグランドや経験など、出来るだけ共通点を見つけ合う事だと思っています。ただ、このプロセスは多大な時間を要し、簡単に進めるプロセスでない事は申し上げる必要ないと思います。仕事面でも多忙な企業のトップを相手にするわけですから、依頼者にもご理解して頂く必要があります。そして、時には上に述べた顧問弁護士など家族に近い方の力を借りる必要もあり、それも紐解きの方法の一つだと思っています。
3)結論
結論をお話しすると、時間をかけた会話から2代目の今までの苦労が分かり、存在と権力の維持の必要性についても理解できました。理由はいくつかありました。存在については、1)家族に忘れられたくない(一生仕事人間だったので、それ以外では自分の存在がなくなると思った)、2)自分の人生に意味を持ち続けたい、3)仕事以外知らないなどでした。権力については、1)3代目に自分が経験した苦労をさせたくない、2)まだ自分なしでの3代目の経営能力に不安、3)この方法以外知らないなどが出てきました。どの答えにも人間らしさが見え、そして家族を守りたい父親らしさが見えたと思いました。そして、各ポイントに対しての私のコメントは次のとおりです:
存在について
1) 家族に忘れられたくない:忘れられる事は全くない為心配する必要はない。逆に家族は感謝している。
2) 自分の人生に意味を持ち続けたい:家業を導いた人にしか出来ない子孫への教育役など次の役目を考えてはどうか?
3) 仕事以外知らない:時間をかけて奥様やご家族との関係を見直したり、新たな取り組みを行ってはどうか?
権力の維持について
1) 3代目に自分が経験した苦労をさせたくない:なんとも優しい父親像ではないかと思いました。相談役などのポジションも可能では?息子さんもご自分の人生を歩む必要あり。
2) まだ自分なしでの3代目の経営能力に不安:相談役でサポートも可能。他相談役や重役に3代目の成長ぶりや能力について聞いてみてはどうか?
3) この方法以外知らない:お子様たちが小さい時はそれでも良かったかも知れないが、大人同士の関係では不適格。全員の成長が求められる。焦点を事業から家族の継続へ移してはどうか?
この様な話し合いから、今後の継承についての話し合いが可能になります。これは時間がかかる問題ですので、すぐに継承の話をするのは不可能です。人間の感情が入り込んでいますので、各自のスタンスを尊重する事から始まり、いかにしてWin-Winに収め、家業の長期繁栄を可能にするかに焦点を置く事で、主観的考えから客観的見方に変えることが可能になります。よって、責任の擦り付けではなく、「家業」を主としたディスカッションに納められると思っています。
ここにご紹介させて頂いた私どものアドバイスは膨らませて纏めてあります。しかし、ポイントは時間をかけて、全員参加型の紐解きを行うという事です。皆様の紐解きも成功します様に。
KM Pacific Investments Inc.代表
枡田 耕治
YouTube: KM Pacificオフィシャル
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