先週お話ししたケーススタディーにはまだ話の続きがあります。先週の話は現経営者である父親からの立場でお話をしましたが、同時に依頼者である息子さんの立場から見た役割も存在します。今週は同じケーススタディーを息子さんの立場でお話ししたいと思います。
1)弊社の役目
先週のブログでもお話しした様に、当初の依頼人との話し合いで、状況や依頼人が問題としている点などについては時間を掛けてご説明いただく様にしています。そして案件が動き出したあとは、我々の方で関係者全員にお話を聞くことになります。その際、今回の様に状況においてはご依頼を受けた案件を話す以前に私たちを信頼して頂く為の「ハネムーン期間(新婚期間)」とも言える、お互いを知り慣れる期間を設ける必要があります。もちろん、弊社としても実際の案件が進む前には関係者のご理解を得ていただく様にしていますが、それは決して関係者全員の賛同を受けて意欲的にお話をして頂くという事にはなりません。よって、場合によっては、時間を掛けて本題が話せる様になる準備をする必要もあるという事です。ここでもやはり相手が人間であり、個々に色々な思いを持っていらっしゃる訳なので、一筋縄では物事はすすみません。でも、これを関係者の中で進めようとすれば、不必要な感情が入り込み冷静な話し合いが出来なくなることも多々あります。よって、冷静に感情的要素を取り除くという意味でも、我々の様な第三者が中に入ることにメリットはあると思います。
一つ重要な事ですが、弊社の役目は必ずしも継承を見届ける事ではないと思っています。継承を即遂行するかしないかは、ご家族や関係者が話し合った上での最終判断だと思っています。もちろん、最後までご一緒させて頂く事もありますが、それ以上に我々の役割は話し合える場と人間関係を作り上げ、継承出来るプロセスを作るお手伝いをする事だと思っています。ですから、客観的なトリガーポイント(遂行決断条件)を作り上げ、条件次第では継承を遂行可能にするのも我々の役割だと思います。トリガーポイントを設定する上では、相談役や取締役会を巻き込んだシステムの構築や懸念事項に対する防御策を条件として入れておくのもひとつです。
ただ、家業の場合の取締役会における現社長の影響力は大きく、取締役会も名ばかりのものになっている場合も多く存在します。その場合には、家業の繁栄が継続する経営者継承システムや上記でお話ししたトリガーポイントを構築し、条件が満たされた時点で継承が確実に遂行されるシステムを導入する事が大切になります。さもなければ、全てが形だけのものになり、実質的な継承はなくなってしまう可能性が高くなります。この様な状況を避ける為にも、当初に多少時間がかかったとしても、全関係者と話し合いの時間を持つ事は貴重なプロセスだと思います。もちろん、我々はあくまでもサポート役で、ご家族を支援する立場にあり、ご家族全員が納得するプランを編み出せる様にお手伝いをするという事です。しかし、この重要なプロセスに関わらさせて頂くのであれば、ご家族の幸せと家業の継続を確実なものにするのが我々の責任だと思っています。
また、ご家族によっては、早急な継承を実行したいというご希望を持たれるご家族もいらっしゃいます。根底に存在する本当の理由がなんなのかにもよりますが、強硬なプロセスは家族の人間関係に亀裂が入ったり、家庭内紛争にまで発展する可能性がありますので、この様な流れは家業の継続と家族の幸せ面からも避ける必要があると思っています。
2)家族の役割
さて、本題に戻りますが、このケースの様に当初の期間が現経営者であるお父様との関係構築に使われたとしても、ご家族の役割は複数あります。依頼人になるご子息(または、ご息女)には家族と家業の環境が円滑に流れる為のサポート役を買って出て頂くことが必須になります。我々の様な第三者が継承問題で家業に入り込むことは決して現経営者には面白くない事です。よって、経営者の感情や人間性も社内で溢れでてしまう可能性も多大に存在します。特に今後も経営の継続をお考えの経営者には怒りを覚える事だと思います。この様な場合、社内への影響や精神的ストレスを制限し、社内の雰囲気を安定しておく事は業務遂行面からしても大切な事です。ですから、ご家族(ご子息)には、潤滑剤の役割をして頂く必要があります。これは第三者の我々が社員や関係者にお話しする事ではなく、ご家族(経営者家族)が質疑応答も含め直接対応する方が周りの安心も得られるものです。もちろん、我々の存在が必ずしも早急な継承プランの設定及び実行ではない事を現経営者や関係者の方々にご理解して頂くことが第一のマイルストーン(段階的に達成しなくてはいけないゴール)になります。この様な余計な摩擦や誤解を防ぐ為にも、当初に時間をかけた自己紹介期間はとても貴重な役割を果たしてくれます。
社員を安心させると言う面では、依頼人や関係ご家族が精神的に影響されてはいけないと言う事です。この様なワンマン経営者の場合には、その方の存在は大きく強いものだと思います。そして、ご家族にもその力強さと権威は常に存在していると思います。よって、感情的になられたお父様を見て、息子さんであれば「びっくりする」、「怖がる」と言う精神状況になり、動揺を隠せなくなってしまうかも知れません。しかし、この精神状態は顔にもでて、家業内の社員にも鮮明に伝わってしまいます。ですから、まずはご自分をコントロールする術をしっかり学ぶ必要があります。もしくは、この様な状況下にあっても、周りの心配を正面からかわせる手段を持っておくべきです。
その手段がどの様なものかは、みなさんの性格の長短所や対応すべき社員の性格や人間性にもよるので一概には言えません。ただ私の個人的過去の例をお話しすると、相手によって対処方法を変えていました。例えば、自分が精神的に影響されている事を認めるも(嘘をつけばすぐ見破られ、余計な心配をかけるので)、これは会社全体の将来のためという事を明確にし、自分の任務として対応している事を伝えました。ただこれだけだと社員の心配も解消されないので、「時によっては話を聞いて欲しい」と願い入れ、自分の弱さを見せながらも、ちゃんと対応出来ている一面を見せました。もちろんこれは社員との関係にもよりますが、信頼した関係が構築されている仲であれば、相談に来ない間は精神的にも対応可能範囲内という様に取ってもらえます。時には、社員からの意見や心情を直接受け入れる環境を作りました。彼らの心配事を正面から受け入れ、それに対して誠心誠意の返事をする事でさらなる信頼を得ました。
3)重要な事
しかし一つ注意ですが、社員に対しての返事には、自分の心内をなんでも話して良いと言うわけではありません。社員対応の最大ポイントは社員の心配や社員への精神的影響を防ぐもしくは最小限にする事です。この目的を達成する為にも言葉を選び、伝え方をよく考える必要があります。
そしてこの社内環境保持というプロジェクトから、ご子息には人間関係のスキルが問われ、次期リーダーとして社員をどれだけ安心させ導けるかというリーダーのスキルと信頼度も明白に現れてきます。逆にこれは経営者を作り上げていくプロセスとしては大事な事だと思います。社員が安心できない、信頼出来ないリーダーは孤立し、事業はいずれ行き詰まってしまうからです。そして、この様な努力は経営者や取締役・相談役にも見えますので、継承というプロセスを決めるだけではなく、実質的な能力を証明する事になります。
ただ、一つ重要な事は、経営レベルや取締役会などに自分の考えを売り込む様な行動は防ぐべきです。さらに、継承プロセスの構築の必要性を説明するのには意味があっても、関係者の同意がないうちに即遂行に移す必要性を訴える事は危険で厳禁です。これは裏工作とみられ、確実に人間関係を壊し、家業の継続をも脅かす事になります。何度も申しますが、家業(いかなる企業)も人間が根底にあり、人間関係によって企業の将来は決まってしまいます。ですから、面倒でも、時間がかかっても、各必要なステップをとる事は必須です。
人間関係にもいろいろなアプローチが存在し、複数の対処方法があると思います。そういった面でも、家業に対するアドバイザー選びはとても慎重に行うべきプロセスです。実績数や経験ももちろん大事です。でもそれ以上に人間性やアプローチの共感など目に見えない判断項目はとても重要だと私は考えています。自分の家族の事だし、自分が誇りに思う家業だからこそ、誰でも良いと言うわけには決して行きません。ご自分と社員や関係者全員(そしてその家族)の人生と命をかけた大仕事です。だから適切で納得の行くアドバイザーを見つけられる事を心から祈っています。
全家業の継続と繁栄をひたすら祈り、今週のブログを終わりたいと思います。
KM Pacific Investments Inc.代表
枡田 耕治
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