ケーススタディーを通じて、これまで実際に起こっているご家族の継承問題や家族内の人間模様についてお話ししました。このトピックだけでもこのブログを継続できる内容ですが、今週はこの様な紐解きが出来た上で、事業として「家業を継続するには何をするべきか」についてお話ししたいと思います。
1)企業継続に必要な事
読者の中でどのくらいの方が私の著書を手に取って頂いたかは分かりませんが、私が経営者として、そして家業の現リーダーとして今後の事業継続を考えた場合の焦点は、財務諸表に出てくる金銭的スケールの数値ではありません。これをお読みになって、「この経営者は何を言っているんだ?資本主義の根底には強いものが資産を構築して生き残り、弱いものは自然の法則に則り淘汰されていくだろう」とお考えの方もいらっしゃると思います。資本主義議論上ではそうかもしれません。これはまた違うトピックになってしまいますが、世界で最も資本主義理論に近いアメリカも厳密には「資本主義」という定義には則っていません。その上、一般定義として受け入れられている資本主義という経済理論は、もうすでに限界にきており、その形は現在まさに変化しつつあると思っています。
「現金以上に企業継続の上で大切なものはなに?」というお話をする前に申し上げておく事は、私も現金は重要な項目だと思っています。でなければ、企業の存続は不可能です。しかし、ここで私が申し上げたいのは、「お金」だけが企業継続に必要な事ではないという事。そして、「お金」を第一に考えた場合には、家業の継続は不可能だという事です。お金儲けだけを考えるという事は、ほとんどの場合が現在の需要に適った商品を提供する事になり、先週触れたブルーオーシャン戦略(Chan and Mauborgne著)の中でも書かれている様に、競争の中で生き残りを考える事になってしまいます。よって、独自のニッチを見つけない限り、赤い海(市場競争)の中で埋もれてしまい、企業の行末は市場に決められてしまう事になってしまいます。もちろん、近年新聞を飾るITなどでは赤い海の中で多少の独自性を取り入れ、企業売却と言う形で一獲千金を狙う会社も多数存在します。しかし、歴史ある家業にはこの様な経営スタイルは値しません。
2)目に見えない資産
では、「お金」以上に必要なものは?それは、財務諸表に出てこない企業本来の資産です。ではいったい目に見えない資産とは何か?それは、各家業(よって、オーナー家族内)に蓄積されて来た、歴史、家訓、伝統などです。それに付け加え、家業内での業務に対しての姿勢、関係者全員を家族の様に扱う人間関係、オーナー家族の利益追及もさることながら社員や関係企業との共存におけるWin-Winな関係など、項目は限りなく出てきます。
勿論、皆さんのなかでは、これらは「当たり前」の事として今まで事業に打ち込まれて来たと思います。しかし、その当たり前が埋もれた宝石であり、今一度見直しをして、「見える化」する事が大事だと思います。これら習慣や価値観は各家業によって異なり、各家業においての発足の経緯も異なって来ます。だからこそ、同じ業界に複数の同族会社が存在したとしても、各会社全く違う生き物であり、個別の生き方が存在するのです。その上で、収益や売上額というのは長い歴史(G1でも数年から数十年)の中では断片的な「診断図」でしか現れて来ません。オーナー企業というのは常に将来に向けて種まきをしていきます。そして、刈入れはもしかしたら次の世代になってからかもしれません。でもこれは毎四半期の株主への報告をしないで良い同族会社だからこそできる特権だと私は思っています。ですから、お金の勘定ばかりしても、本当の家業の価値は見えてこない。それ以上にトップの生き様や家族の価値観、生き方、家訓や歴史を通してみた方がよっぽどその家業の持続性が理解できると思います。そして大事なのが、次の世代の成長ぶりであり、次世代の教育です。私も昔幾度か枡田のメインバンク担当者のところへ父と出向いたことを覚えています。この様に継続可能の証は「長期投資」に対しての姿勢に出ていると思います。
3)見える化の実践と採点
では、具体的に見えない家業の価値をどう「見える化」するのか?弊社の例を取れば、この見える化は常日頃の業務で顧客や業者に対しての姿勢で「見える化」しています。そして社内でも明確な弊社の価値として浸透させています。例えば、弊社の歴史では当たり前の、プロジェクト初回の業者ミーティングにオーナーが参加し、各プロジェクトに対しての考えや意気込みを話す事。建築家はこの様な業者の会議に出席するオーナーはごく稀。その上に、時間をとって意気込みを伝えるオーナーは彼女の30数年間の経験でもないと言ってくれました。この様に、「見える化」は他ではされていない御社の「あたりまえ」を表面化することだと思います。でもそれだけでもすごい価値で市場において差別化を可能にするものです。
私も今回の出版を通じて、弊社の価値や考えを文字化して言葉に表しました。また、「見える化」を行い、実践する事で建築家やゼネコン業者との会話がムスーズになり、腹を割った話し合いが可能になっています。お互いに「予備」の予算を見積もる必要がなくなり、会議中の会話もストレートで率直な意見交換を行う事で準備期間の短縮につながっています。そしてこの様な弊社のチームワーク体制は実際のボトムラインに反映し、各プロジェクトのより優れたパフォーマンスに直結していると私は考えています。
「見える化」の最も重要なポイントは、顧客や業者からの態度や意見(採点)で決まります。自分たちがいくら「やっている」と思っていても、周りが理解できず、形(関係向上、プロジェクト期間短縮など)に出ていなければ、「見える化」は出来ていないのと同じです。
読者の中には「そんなこともうやってる」とおっしゃる方もいらっしゃると思います。それはすごく素晴らしい事だと思います。そしてお客様や業者からのフィードバックも努力に比例していれば、殆どの方々の先を行かれている家業経営だと思います。その場合には、それをどの様に次世代に継続していくか、そしてどの様に将来の世代が社会の雑音と外圧(世界政治や経済、グローバル経済の圧力など)がある中で成長と繁栄を継続していくかを考える事だと思います。
4)最後に
もう一つ重要な確認事項は、「トップの理念や考えが会社内全員に浸透しているか、そしてその考えは正確で明確に全社員の日々の業務の中で遂行されているか?」確認される事だと思います。社員からのコメントが「うちの社長は偉いよ」で終わるのではなく、じゃあその社長の考え方や行動をどの様に、社員一人ひとりに伝え、浸透させ、明日からの業務に反映させるのか?これは日々の会社経営以上に大切で時間がかかる経営者として重要な任務だと思います。そして、社員の考えや姿勢は、メール一つの書き方にも出てくると思います。定期的な社員との面談やパフォーマンスレビューなどでも確認できると思います。家業の場合は、親睦旅行や会社ぐるみの集まりなどを開催しているところも多いと思います。その様な場所こそ、価値観や歴史の「見える化」を実行する最適な環境ではないでしょうか?
方法は多種多様です。方法が重要なのではなく、考え方、そして結果を生み出す事が重要だと私は思います。多くの家業が日本の中にいらっしゃる中、70%強の家業が3世代内で終わってしまうのはとても聞き苦しい事実です。それをどうにかして打破したい。そして皆さんの家業においても百世代まで継続して頂きたいと常に考えているので、これからも皆様の継続のアイディアの素になれる様なブログを書き続けていきたいと思います。
関連ブログ
第110話「家族内の問題の紐解き ケーススタディー 1」
第111話「家族内の問題の紐解き ケーススタディー 2」
第113話「家業の継続の必須事項」
第114話「外部圧力に対しての家業継続」
KM Pacific Investments Inc.代表
枡田 耕治
YouTube: KM Pacificオフィシャル
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