弊社の様な改築や再開発のバリューアド戦略を専攻する投資家にとって、優れた建築家の存在は欠かせません。建築家のスキルはプロジェクトの成功を左右するといっても過言ではないと思います。特に弊社の様なインダストリアル物件に焦点を置き、それらをフレックスインダストリアル(準オフィス物件)に変更する場合には、物件の性質からもシンプルな「箱」に終わってしまうことが殆どです。これでは物件の差別化は不可能で、長期における市場内で魅力ある位置の維持や高額家賃の請求は不可能です。
そしてこの様な将来的な高品質で可能性を多く秘めた物件作りには、建築家とのビジョンの分かち合い、方向性、物件の使用方法などの共有と共感は必須だと考えます。その上、建築家は行政との折衝や申請も行ってくれます。よって、建築家をうまく「使う」事で、プロジェクトのプロセスが円滑に進み、「箱」ではなく、入居業者の「Home Away From Home(第二の我が家)」をつくりあげることが可能になります。
このブログでは、建築家の役割として、1)設計、2)申請、3)建築確認についてお話ししたいと思います。
1)設計
建築家のメインの役割は物件の設計です。彼(彼女)らの専門的技術はプロジェクトの成功を左右する要因である事は言うまでもありません。設計も図面作成だけでなく、デベロッパーの思いや、ビジョンのヒアリングに時間をかけて理解する事で、形を持たない想いを形にする一種の芸術品の作業工程で重要な役割を担っていると思っています。この目的を果たす為にも、建築家の理解や人間的共感は大事な要素だと思います。
設計上で建築家のもう一つ大事な役割は、必要で信頼あるコンサルタント業者を連れてくることです。建築家と言っても全てを把握している訳ではないので、構造、建築基準法、電気、水道や空調に園芸などの専門家は必要になってきます。弊社の使っている設計事務所は小さな専門性を用いた事務所ですので、幅広い人材を抱えていません。私の察するところ、この様なコンサル的人材は大きな設計事務所では社員として抱えているのかもしれません。でも結局のところ、殆どの場合が時間制で働いているので、顧客への請求額としては殆ど変わらないと思います。
その上で、私が近年感じる不動産業界の思いをお話しすると、経済的利益追求が多くなり、設計的にもつまらなく、美的感覚を損ねる物件が多いと思います。それはやはり工場での大量生産の様に決まったベース設計を土地に合わせて調整して用いた方が費用も時間も大幅に節約できます。しかしこの様な流れ作業では、テナントに感動を与える事はなく、その空間にいることが苦痛にも思えてしまう様な建物設計が多くなったと思います。外観のデザインだけに集中し、ユーザー視点の効率や利便性を除外した物件が多いと思います。人々が1日の3分の一を過ごす環境ですから、創造性や刺激を与え、同時に安らぎと安心感を与える空間設計は必要だと私は考えます。そして、この様な居心地や使い勝手は家賃と空室率という二点で将来的な経済性を左右させます。付け加えますと、不動産ファンドやREITではこの様な短期利益追求型の物件が多いと思います。REITの場合には、ファンドから流れてきた物件であることが多い為、柔軟性がないのが現状です。
やはり、設計の時点では、ビジネス的資産の効率と入居者の精神的・物理的健康を考えたデザインが重要だと思います。
2)申請
申請とは行政への開発・建築許可申請を指します。バンクーバーの開発申請にはサイズにもよりますが2年弱ほどの期間がかかり、開発申請と建築申請の二つの申請許可が必要になります。(詳細については第72話「不動産投資シリーズ – 再開発・改築手法 1」を参照ください) よって、申請側としては少しでも効率良い手順で申請する事がプロジェクトの成功をもたらす事になります。その為、多くの申請者(代理)は申請以前から行政と用途、デザインなどのすり合わせが行われます。これはバンクーバーの問題だと思いますが、行政側の対応や柔軟性も各担当者によって異なってしまいます。ですから、担当者によっては変更要望が多かったり、「共同作業」感に欠ける事もあります。
こちらで建築家を雇う場合には、建築家からの提案書が提出されますが、申請期間や行政対応コストについては常に建築家の予測数値で「変更の可能性あり」という注意事項が添えられています。
では、開発と建築申請の同時提出は可能か?ともなるのですが、両申請の対応部署は同じ建設部になるのですが、対応課が異なり、お互いのコミュニケーションが出来ていないのが現状です。その割に申請費用は高額で、弊社の1270 Frances Streetの場合には開発申請は約$90,000(約720万円)かかり、建築申請では約$130,000(1,000万円)を請求されました。この上に用途変更などを加えるとPublic Hearing(公聴会)を開く必要もあり、期間だけでも2年ほどは余計にかかり、申請費用だけでも3,000万円ほど高騰してしまいます(弊社プロジェクトサイズ))。市民の反対が多い公聴会ではデザインのやり直しになり、プロジェクトは白紙に戻ってしまう事もあります。ですから、用途変更は高層住宅プロジェクトでは頻繁に聞きますが、それ以外の物については行うメリットがないのが現状です。
ちなみに、40,000平方フィートのエートリアムを含めた木造建造物を予定していた1270 Frances Streetプロジェクトでは建築家とコンサルコストで約$670,000(5,360万円)の予算を組んでいました。
3)建築確認
建築家の仕事で三番目に大きいのが建築確認です。これはプロジェクトがデザイン通りに行われているかを建築家が確認する作業です。もちろん、この作業は第三者のプロジェクトマネージメント会社の一環として雇う事も可能です。しかし、建築家ほど各物件の設計に精通した人はおらず、ダウンタイムも最低限にすみます。またプロジェクトマネージメント会社にも色々ある上に、弊社では各業者との関係はすでに深く築かれていると自負しているので(この理由で弊社では大きな業者をわざと選択していません)、ゼネコンにプロジェクトマネージメントと建築家に建築確認を依頼しています。もちろんその上に、弊社の人間も二日に一度の割合で現場入りし、各作業の確認と建築プロセスの向上に努めています。
建築確認は銀行融資を引き出す上でも必須になり、建築家がサインオフ(承認)しなければ、銀行からの建設融資が降りてこないのが現状です。こちらでの銀行融資は25%程建設が進むごとに申請する事になるので、効率良い確認と信頼された承認者がプロジェクトのスムーズな進行を約束します。
上記でも弊社の人間が頻繁に現地入りして状況を確認するとお話ししましたが、我々も建築専門でなければ、建築家でもないので、「第二の目」として建築家のプロジェクトレビューは必須になります。
同じ建築家を使う事で弊社の考えや好みを理解して貰えると我々は思っています。そして、信頼する各業者の存在は弊社が小さな企業でいる事を可能にする大切なチームメートです。その中でもコアになる建築家の価値は大きく、常に同じKRA Architectureという会社を使っています。
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KM Pacific Investments Inc.代表
枡田 耕治
YouTube: KM Pacificオフィシャル
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