これは2020年末に行われたネット会議なのですが、代表的な全米不動産協会であるNAIOP(National Association of Industrial and Office Properties)のナショナルコンベンショで行われたC-レベル(経営者レベル)役職者会で取り扱われた話を纏めて皆さんに全米ではどの様な事が話されているのか、ご報告したいと思います。
今回は2020年秋から冬という時期もあり、ご存知の通り北米ではコロナの影響が大きく事業へ影響をもたらしている真最中でした。その様な中、小規模と大規模(機関投資家)グループに分かれ、各グループに特有なトピックについてのディスカッションが行われました。私は小規模企業経営者のグループで参加しましたが、1時間半の会話の大半はコロナにおけるビジネスへの影響やコロナから変化したビジネスの行方などが話されました。その中でもちょっと気になった次の点についてお話ししたいと思います。1)テクノロジー、2)家賃回収率、3)物件売買と価格。
1)テクノロジー
今回非常に興味深かったのは、アメリカの不動産プラクティスがカナダに比べて非常に遅れているという事です。売買や賃貸借契約書でもまだ実際の書面を送り合い、契約書を締結しているとの事でした。カナダではこの様な現物を送り合う実務はもう10年以上も前になくなっており、現在ではメールやデジタル署名機能を取り入れています。これは物件売買上の契約だけでなく、銀行での融資申請書などにおいてもデジタル署名が主流です。
今回の懇談会でも初めてデジタル署名を使ったと言う参加者が多く、同時にまだ使っていない参加者からは不安や疑問の声も上がるほどでした。カナダでも物件所有者変更申請や会社設立申込書などにはオリジナルの署名が求められますが、その他の建築申請、行政申請や登録書はデジタル書面でメールの添付としてやり取りする事が一般化されています。特に賃貸借契約書などはデジタル署名をメールに添付する事で法的に送付したことが認められる様になっています。
2)家賃回収率
殆どの参加者がインダストリアルを中心(+オフィス)としたオーナー(投資家)でしたが、アメリカでは政府からの家賃支払い援助がないにも関わらず、グループ全体で2020年下半期は9割ほどの賃料回収ができていたとの事です。この数字はカナダと比べても素晴らしい数字になりますが、インダストリアル物件からの家賃収入と言う事が大きな要因だったと思います。また、ここでお話ししておくべきポイントは、このフォーラム参加者のインダストリアル物件は、本来の物流倉庫物件であり、弊社の様なニッチインダストリアル物件ではないと言う事です。これにより、各物件規模には差がありますが、物流企業からの入居が大半を占めており、物流業界の業績がオーナーの利益に影響しています。ですから、ステイホーム政策のもとで配達量が記録的に増加している現状では、物流の好成績が家賃回収率に直接影響をもたらしています。
このトレンドは今後も継続すると言うのが巷の予測で、インダストリアル業界ではバブル的な状況が継続し、家賃回収においては今度も問題ないと言うのがコンセンサスでした。
3)物件売買と価格
インダストリアル物件への入居需要が高いのと同時に、これら物件所有への需要も継続して存在しているとの事です。参加者は私を除いて全員アメリカベースの人間たちでしたが、このコロナの状況下、売却物件がもっと多く出ると思っていたというのが参加者のコンセンサスでした。しかし、現状は逆で売り出し物件は殆どなく、出ていれば高価格で複数のオファーが舞い込む価格釣り上げ状況との事です。某カルフォルニアベースの家業投資家は10物件ほどへオファーを出し続けたものの、価格競争で全て負け、購入には至らなかったとの事です。このグループは機関投資家や親族たちの資金を扱っている集団なので、金銭調達面からの問題は全くないと聞いています。しかし、価格帯でハードルレート(最低必要リターン率)を超える事が出来ずに、毎回負けたとの事でした。
彼ら同様、機関投資家を取込んだ投資家集団は高額の資産調達が可能であっても同時に資産活用が必須になる為、イールド(リターン)を多少犠牲にしてでも購入せざる負えないグループもいるようです。結果、高額を支払って購入している訳です。
よって、価格面でも相当な上昇が見受けられ、ニュージャージー・ニューヨーク地区からの参加者の購入プロフォーマ(試算分析)では、$200psf(一平方フィートあたり)を使っているとの事です。私の前職(よって十数年前)の米国アセットマネージャーが$50psfを購入価格(西海岸を中心とした平均ですが)に用いていたのを考えると地域性の違いがあったとしても相当な市場価格の高騰だと思います。しかし、他の参加者からの意見では、$200psfレベルの価格はバーゲンだとのコメントも出ており、まだまだ価格は上昇する兆しを見せています。今回の参加者も殆ど全員が2021年も継続して購入していく意欲を見せていました。
4)まとめ
ただ、今後の焦点は賃料の上昇です。バンクーバーでも購入コストは投資需要から急激に高騰しましたが、この購入価格の高騰をサポートする賃料の上昇傾向が存在し、今後も成長していくのかが大きな焦点です。今後もスペースの需要から賃料が継続して上昇すれば、不動産全体への需要は継続していくと思います。しかし、これら購入価格をサポートする賃料の成長が存在しない場合には、逆に価格の下落が考えられ、コロナの影響を強く受けている不動産市場の回復は時間が掛かってしまうと思います。
オフィス業界は何処でも似ており、閑散とした状況の様です。今後の兆しに懸念を示して、ダウンタウンのオフィス市場では不動産ニーズを削減する試みが目立っているとの事です。しかし、郊外や短期間の賃貸形態に対しての問い合わせは上昇している様です。特に少人数用オフィスの需要は高く、問い合わせも多いそうです。カナダでもこの状況は似ていて、弊社が入っているサービスオフィスでも、新規小企業の入居がこの頃目立っています。
不動産への需要は北米全体的に今後も継続して存在していく見通しです。
KM Pacific Investments Inc.代表
枡田 耕治
YouTube: KM Pacificオフィシャル
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