今週よりまたブログのトーンを変更して北米の現状に目を向けたいと思います。初回の今回は弊社の社外取締役の一人であるJack Rader氏とのインタビューから機関投資家の現状と北米(シアトル)のファミリーオフィスの考え方についてお話ししたいと思います。
1)Jack Rader氏について
Rader氏は1990年代からお付き合い頂いている不動産投資の専門家です。彼自身もう60代ですが、20代から不動産投資家としてハンズオンな投資を行ってきており、米西海岸において某世界規模の仲介会社の統合や経営を仕切り、独立後はゴールドマンサックス、DRAアドバイザーズ、ロックウッド・キャピタル等を始めとする代表的な機関投資家と共同投資をしてきた人物です。現在では、ファミリーオフィスにおける不動産資産管理のコンサル及び共同投資や、金融機関の依頼による不履行融資のコンサルを全米で行っています。よって、現在の不動産事情については中枢に存在する人間の一人だと思います。Rader氏は弊社において、社外取締役として会社運営の助言を行っていると共に、不動産投資面での戦略や弊社の投資判断に対しての助言を行ってくれています。
2)機関投資家の不動産投資戦略
Rader氏によると、機関投資家の不動産投資戦略ではIRR(内部収益率)ターゲットを約 13〜15%に設定しており、Core Plusリスクレベルの物件を中心にポートフォリオを構成しているそうです。Core Plus物件とは小規模な化粧直し(例えば塗装、共用エリアの照明やエレベーターのアップグレード)、管理の効率化(業者の入れ替えや管理方法の変更)、テナント斡旋(信用や賃料収入の向上)等の少額資本注入で、再度売却可能物件に変えられる物件を指します。これら複数の小さな更新が全体の物件価値を大きく向上する結果になります。この様なアップサイドを獲得するにも、数年は掛かってしまうので、保持期間も最低でも2〜3年、多くは5〜7年になります。余談になりますが、枡田が機関投資家に在籍していた際にも、一般的な物件所有期間は5年から7年間でした。
一般的な融資比率は約50%とリスクレベルでは保守的範囲内で投資をしているとの事です。ただ、資金調達コストが3%以下に保たれている為、投資手法としてはリスクを張った物件への投資が可能になります。例えば、空室率が多少高い物件などです。物件からの収益にブレがあっても、融資払い戻しさえ可能であれば、新規テナント誘致で利益上昇を狙う事が可能になります。これが上記でお話ししたCore Plusの良い例です。
機関投資家とは人間関係が最優先事項になるとの事です。機関投資家の運用額が大きい為、需要に見合った件数と金額のディールフロー(購入候補物件の紹介)を継続的に提供して行くのは至難の業になります。その上、機関投資家のポートフォリオマネージャーは一人しかいないので、責任者との時間をオンゴーイングで獲得するのも「時間と労力の投資」とRader氏は話しています。
また、世界的に溢れている資金の流入で、必要以上の金銭が流れ込んでおり、最新のトレンドは自社内で購入から運用まで全てを行う流れが出ているとの事です。実際、カナダの機関投資家でも仲介業者の協力は取り入れながら、購入から管理を含めた資産運用は各機関投資家社内で行っているところがここ数年で多くなりました。
この様な環境の変化により、Rader氏もクライアントベースを機関投資家からファミリーオフィスや資産管理アドバイザー等へ変更したそうです。
3)ファミリーオフィスについて
まず、「ファミリーオフィスとはなに?」というところから入ると、ファミリーオフィスとは、巨額の富を持っている個人もしくは家族に対して資産管理サービスを提供するビジネスです。第三者企業のサービスとして提供する場合が殆どですが、資産レベルによっては自ら担当者を雇い新規ビジネスとして構築する場合もあります。Rader氏の場合にはファミリーオフィス及び、各資産家のアドバイザーである弁護士や会計士に対して不動産投資に対しての助言や資産運用を行なっているとの事です。
ただ、ファミリーオフィスと言っても多種多彩で各家族のニーズも異なります。例えば、G3やG4(三世代目や四世代目)になると家業創設者が興した事業の面影はなく、それら世代ではビジネスのフロントラインで活躍するだけの経営能力が伴わず、お金を稼ぐ能力が欠ける場合が多いそうです。よって、自ら稼ぐのではなく、ファミリーオフィスなどの資産管理の専門家に頼る形を取っています。
不動産を用いて資産の保全を行う場合には、ファミリーオフィスは短期キャピタルゲインを狙った投資家グループとは違い、長期における安定した収入が第一に求められます。よって、株投資などの尺として用いられる内部収益率(IRR)は使われず、ROI(投資収益率)が用いられます。ただ、投資収益率と言っても、多くの場合が全現金投資になり、融資を用いることは殆どないそうです。そして資産保全が最優先事項であり、いかなる場合においても高リスクを避ける事は必須条件とされています。よって、求められる運営上の投資利益率も5〜7%が主流だそうです。
バンクーバーでは現在の低金利環境と物件需要におけるオールキャッシュ投資では2〜3%の投資収益が上限になってしまいます。(その分右肩上がりなので売却時のキャピタルゲインは望めますが)しかし、市場規模と物件数が違うアメリカ市場では、キャップレートが未だに高く6〜8%の収益が望める運営物件も多く存在します。よって、アメリカ市場であればファミリーオフィスが求める期待収益も可能になり、それほど問題がないのではないかと察します。
投資判断上の重要ポイントは市場と物件タイプになります。長期運用になりますので、安定性があり、今後の成長軌道に乗っている市場を見つける事が重要になります。物件タイプでも、現状の過剰需要にあるインダストリアルが10年後にも存在するのか、そして物件売却時には今日描くシナリオで出口を迎えられるのかという将来的見込みが鍵を握ります。Rader氏曰く、安定した成長シナリオはファミリーオフィスに投資意欲を持たせる為にもとても重要との事です。
関連ブログ:
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KM Pacific Investments Inc.代表
枡田 耕治
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