前回に引き続き、不動産業界のエキスパートへのインタビューを掲載していきたいと思います。今週は弊社が設立時から拠り所としており、成功には欠かせない建築家についてです。弊社が頼りにしているKirsten Reite Architecture社は名の通り、Kirsten Reite氏が設立し、経営する建築家事務所です。弊社の建物は全て彼女のデザインで着工もしくは竣工しています。彼女の経歴の多くは病院や医療関係施設ですが、その他にも住宅、教育施設、商業施設と幅広い経歴を持っています。その上、独立までの期間はカナダのトップクラスの建築事務所であるPerkins+Willで医療施設部代表として活躍していました。9年前に始めたReite氏の事務所は、2021年現在で25名の建築家やスタッフを抱えるバンクーバーでも有名な建築事務所までに発展しています。弊社には欠かせないチームメンバーであるReite氏の成功は我々にとっても嬉しい限りです。

Reite氏とのインタビューは次の3ポイントに纏めてみました:
1)建築家の役割、2)現在のバンクーバー、3)今後の建築業界の流れと思い。

1)建築家の役割

Reite氏によれば、建築家とはクライアントの代理人として各プロジェクトの第一バイオリン奏者に値する人間で、オーケストラの全体を纏め、指揮者(クライアント、物件所有者)のビジョンと考えを形にする役割を担うと話ししています。彼女の25年に及ぶ経験の中で特にここ15年間は、戦略家として各プロジェクトと向き合って来ており、建築家とは「デザイン屋であり、将来を見据えるビジョン屋であり、協力者であり、理解者であり、質とプロセスの守り神である」とReite氏は建築家を定義しています。よって、建築家とはデザインを指導し、各関係者(社員、クライアント、業者)が満足して各々の仕事をスムーズに遂行できる様にすると同時に、業務内容や質を確認し、チームワーク環境を植え付ける事が仕事としています。その延長線上には、クライアントの第一の理解者として、そして支援者として、最初のデザインから鍵の引渡しまでを成功に見届け、クライアントの期待を上回る結果を出す事が彼女の責務だと説明しています。

2)現在のバンクーバー

建築はサイエンスの様な方程式で決められたプロセスではないと話しています。建造物の複雑さは日に増し、必要な変化に柔軟に対応できなくてはいけないと説明してくれました。ただ、その中でも最も悩ませるのは行政による建築申請プロセスだそうです。特にここバンクーバー市と隣接するバーナビー市の行政対応の遅さ、複雑さは、クライアントが求めるアドバイスを提供する妨げになっていると悩んでいます。弊社との実務ミーティングでも行政側の担当者によってどの様な返事が来るのか、どれほど協力的なスタンスで申請書を審議してくれるか分からないと、今までに何度も忠告してくれています。結果、弊社の再開発物件の建築申請においても、長く見て1年半は予定してほしいとプロジェクト開始時に伝えられたのを覚えています。しかし、建築申請に1年半もかかると、改築でも通常一年はかかる中、プロジェクトが終了した時には(特に再開発などでは)市場が完全に変化してプロジェクト開始時の数字が通用しなくなってしまう可能性も秘めています。

この様な状況を打破するためにも、Reite氏は医療機関の応援のもと、行政の建築申請システムの改革に乗り出しており、時間、労力、金銭など資源の有効利用化を求めて動いています。同時に、行政としてもシステムに問題があることを認識しており、ゆっくりながらも改善に向けて努力していると言及しており、行政の試みも讃えています。行政としても今までは田舎街レベルの対応で十分だったものが、近年のバンクーバー急成長により、高度でシステマティックな対応が必須な状況になってしまっているのが現状です。その上、担当者になれるほど経験した人材がいないのもシステム崩壊の原因になっています。行政執行役員レベルでもこの問題は取り上げられ、カタツムリの速度程度ですが、変化が始まっているのも事実です。

しかし、現在のコロナ禍は、この進化と発展にブレーキをかけてしまっています。

3)今後の建築業界の流れと願い

建築業界に限らず全ての業界は常に変化し続けるし、その変化に追いついていくのもたまには大変な事もある。しかし、専門家の責任で大事なのは、各変化が一時的な流行なのか、長期影響を起こす基本的変化なのかを見極める力とReite氏は話す。彼女自身も自分がよく分からない流れには参加しないで、常に物事のコアを見極める努力をしていると説明してくれました。

その上で、Reite氏は建築家の貢献と役割が正しく認識されていないと考えており、先ずはここの改革が各建築プロジェクトの価値をさらに向上する事につながると話しています。役割が理解される事で、業界が改善され建築家の任務の内容も向上すると期待を寄せています。具体案として、業界全体が努力をすべき点は、プロジェクト全体を抱え込むような視点で、サービスを提供し、高質な業務とコミュニケーションを浸透させ、進行役(ファシリテーター)として業務に携わることではないかと話しています。

その上で、Reite氏は自分の将来について、「今の自分の立ち位置にすごく満足している。キャリアのみならず、自分が達成して来たこと、完成したプロジェクトや一緒に仕事したクライアント全員に感謝しているし、やっと辿り着いたと思っている。」今後の宿題は、今までのハードワークの実りをエンジョイし、一緒に仕事をしたいクライアントを選択して、想いが込められる仕事に携わる事だ。薔薇の香りを嗅ぐ様に楽しみながら仕事をしたい、と話してくれました。彼女の功績からすれば、Reite氏はもうリタイアしても十分な立場にいます。

「これからどうしたいんだって同じことを誰かに数日前に聞かれたわ。私は楽しみながら、社会のためになる事をし、同時にお金が少し稼げればそれでいい」というのが、このバンクーバーで新風を巻き起こして功績を残している一流建築家の答えでした。なんと謙虚な専門家なんだろうかと思うと同時に、こんな素晴らしい建築家と一緒に仕事ができる事に感謝の意を表したいです。

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