今回のインタビューはモーゲージブローカー(融資仲介業者)についてです。
カナダのモーゲージブローカーは日本国内にある「融資コンサルタント」とは異なり、融資申請者の代理人として、金融機関へ融資取り付けを行なってくれます。これは個人の住宅用でも存在しますし、もっと複雑な商業プロジェクト用にも提供されているサービスです。不動産仲介業同様、住宅と商業様にそれぞれ専門性が分かれており、カナダと共にアメリカでもサービスとして提供されています。
料金(フィー)は纏めた融資額に対しての固定率、若しくは固定額を報酬として請求されます。一般的なフィー率としては1.00〜1.50%ほどになります。しかし、我々がモーゲージブローカーを雇う基準はフィー率ではなく、その人の経験やどれだけ安い融資を確保出来るかのネットワークの大きさです。また、アメリカの場合には、金融業界の自由化がある為、融資提供者も多く、融資の種類や条件も様々な物がありますが、カナダの場合には金融業界は厳しく制限されており、規制が多い為、融資提供者数も限られてしまうのが現状です。よって、カナダでは、1)銀行や保険会社の大手、2)地方銀行の地域活動の銀行、3)組合銀行などの目的が特化された金融機関が主な融資元になります。また、この様な状況から、富裕層による個人融資も調達コストは高くなりますが存在しています。現在の銀行融資が4〜5%程ですが、個人融資の場合には約10〜12%程になります。よって、利用する目的を吟味する必要があるのは言うまでもありません。
では今回のインタビューとなるJames Paleologos氏との対談に移る事にしましょう。Paleologos氏はバンクーバー出身、バンクーバー育ちという事もあり、現地に広いネットワークを持っています。その一環で、不動産業者から彼を紹介してもらい、前回のFrances Streetプロジェクトの際に購入融資を取り付けて貰いました。Paleologos氏とのインタビューでは、1)彼の融資ブローカーになった経緯、2)現在の業界について、3)今後の動向と抱負に分けてお送りしたいと思います。
1)融資ブローカーになった経緯
Paleologos氏も当初は不動産仲介業者としてキャリアを始めたそうです。そんな中、業界人数を考えたとき、不動産仲介よりも商業専門融資仲介の方が圧倒的に少人数で、競争率も低かったそうです。その上、取り扱う情報がセンシティブな為、商業専門融資仲介において安定した成功の道のりまでは長いと考えたそうです。成功までが長いと言うことは、短期で結果重視の一般的な不動産仲介業者にとっては時間がかかり過ぎ忍耐力が足りないので、競合他者が減り、成功する可能性が高いと考えたそうです。また、取り扱う情報内容から信頼が鍵になる為、リピート顧客を取り付けやすいと考えたそうです。Paleologos氏の人間性を見ても目先の利益よりも長期的な利益を重視する人間性がよく伺えます。
2)現在の業界について
Paleologos氏も、ここ10年間の海外からの資産流入を業界変化の原因として挙げています。この洪水状態の資産流入により、地価は異常な程に高騰し開発プロジェクトの利益は極限までに減少してしまったとの事です。よって、たった一つのミスや予測していなかったコストにより利益は瞬く間に蒸発してしまい、損失を出しかねない状況だと説明しています。よって、Paleologos氏も営業戦略を変更し、現在は信頼おける確かな事業者のみからの依頼を受ける様にしているとの事です。仲介業者としても、金融業者に紹介する融資先プロジェクトの失敗や支払い期限の延長は信頼問題になり、優遇条件での融資提供が出来なくなってしまいます。よって、仲介業者にとっても融資先の事業計画や予定事業の成功は自分の将来に影響してきます。
このブログでも既にお伝えしていますが、バンクーバー圏に於ける不動産事業は膨大な時間がかかる為、どの様なサイズでも気がつけば一大プロジェクトになってしまいます。弊社が専門とする改築に於いても、建築申請の過程が少ないと言うことで多少の自由が効きますが、開発事業となれば行政との建築申請も数年単位で行われる為、根気が必須です。Paleologos氏はこの建築申請の状況と同時に銀行融資取付けプロセスも時間がかかる事を挙げています。
弊社の融資取付けの時にもプロセスは長く、Paleologos氏とのビジネス的関わりは初めてであった為、物件購入契約前からプロジェクトと弊社及び枡田の情報を提出して、Paleologos氏が借り入れ者紹介パッケージを作成する事から始まりました。それを元に各金融機関に申請依頼を送付して貰い、返って来たオファーに対してPaleologos氏がさらに交渉を重ね、状況下で最も有利な融資取り付けを行なってくれました。よって、最終的に融資が確定したのは、購入物件のクロージングも最終段階の中で、結果的には計2ヶ月半ほどの時間が必要でした。Paleologos氏としても、現状の住宅危機を例に挙げ、建築申請や銀行の融資申し込みプロセスなどのスピード化が更なる業界の発展につながると話しています。
3)今後の動向と抱負
業界の動向として、Paleologos氏は現状のプロジェクト数を挙げ、今後も新規融資機関の市場参入が継続して行われるだろうと話してくれました。各金融企業には各年の融資キャパが設定されている為、全ての融資希望者の要望を叶える事が難しいと言及しています。よって、多くの要望に答える為にも、今後更なる新規参入が起こるのは必然と話しています。
弊社の時にも、時間的タイムリミットについて説明を受けました。上半期であれば通常は問題ないのですが、年度末になるにつれて各融資元の融資枠が埋まり、融資確保は難しくなります。第三四半期頃からは確保に手こずるそうです。つまり、金融機関としても融資枠が減少し、リスクを冒してまでも融資をする必要がなくなる為、金融機関としても厳選する様になってしまい、リスクレベルが高いプロジェクトに対しては審査の時間が掛かる前に却下されてしまう事も頻繁にあるそうです。よって、弊社の様な投資家デベロッパーとしても、物件の購入時期に対しては敏感になってしまいます。余談になりますが、我々の様な購入者にとっては、税金上の減価償却期間を考えると年内ギリギリの12月クロージングが最も有効な時期になります。しかし、これでは融資も得られないので、本当に微妙です。
Paleologos氏個人の今後の展望としては、「早期退職」をゴールにしているそうです。(笑)自分で稼ぐと言うより、社内の若人仲介業者を教育する事にとても意義を見出しており、若い仲介業者の夢やキャリアゴール達成を支援して行きたいと話してくれました。Paleologos氏にとって、教育と支援は彼自身の心を豊かにしてくれる源と話しており、優しくリーダーシップのある人間性が見えてきます。また、目先の事ではなく、その先を見据えた姿勢は経営者にとっても望ましい資質だと思います。 Paleologos氏には今後のプロジェクトについても支援して貰う方針です。
関連ブログ:
業界エキスパートにインタビュー! 北米不動産業界の現状 – 機関投資家とファミリーオフィス
業界エキスパートにインタビュー! 北米不動産業界の現状 – 建築家
業界エキスパートにインタビュー! 北米不動産業界の現状 – ゼネコン
業界エキスパートにインタビュー! 北米不動産業界の現状 – モーゲージブローカー(今回のブログ)
業界エキスパートにインタビュー! 北米不動産業界の現状 – アセットマネージャー(1)
業界エキスパートにインタビュー! 北米不動産業界の現状 – アセットマネージャー(2)
業界エキスパートにインタビュー! 北米不動産業界の現状 – 会計士(1)
業界エキスパートにインタビュー! 北米不動産業界の現状 – 会計士(2)
業界エキスパートにインタビュー! 北米不動産業界の現状 – 不動産仲介業者
業界エキスパートにインタビュー! 北米不動産業界の現状 – サービスオフィス仲介@IWG (1)
業界エキスパートにインタビュー! 北米不動産業界の現状 – サービスオフィス仲介@IWG (2)
KM Pacific Investments Inc.代表
枡田 耕治
YouTube: KM Pacificオフィシャル
アマゾン: 「家業を継げなかった三代目、継がなかった三代目」枡田耕治
楽天ブックス: 「家業を継げなかった三代目、継がなかった三代目」枡田耕治