今回は2021年のカナダ、バンクーバーと不動産市場を回想したいと思います。市場の総括レポートはまた来年早々にデータが入ってきた時点でお話ししたいと思います。
1)2021年のバンクーバー
2021年も2020年同様、複雑で混乱した年だったと思います。ただ2021年は2020年とは違い、回復の兆しが見えたり、人々の中に生活を継続する意欲が見え始めた1年だったと思います。もちろんコロナ禍の当初のインパクトは大きく、2020年のツケは今年にも繰り越され、今後も時間を掛けて回収されていくものだと思います。
ただ、バンクーバーは以前にお伝えした様に、カナダの中でもコロナ禍の影響は最小限に抑えられた都市だと思っています。もちろん2020年には市全体が閉鎖した時もありました。そして、色々な動揺と混乱が入り混じりました。でも交錯する情報が一旦落ち着く事で、市民の不審は収まり、日々の安定した生活の再開をひたすら待つという状況だったと思います。
2)コロナによる財政と経済への影響
経済面では、マクロ経済の回復と再開が始まったものの、新ノームとされる経済システムの調整(在宅職務など)や経済の流れの変化(ホームデリバリーなど)からの雇用の変動にはまだ対応出来ていません。よって、人材のシフトが大きく起こり、コロナ禍前に栄えていた業界(レストランや小売)などへの被雇用者の流れは途切れてしまい、現在はサービスのギャップをどう補うかが大きな問題になっています。
同時に、カナダ連邦政府は歴代的に多額の医療費を負担する事で、300 billion dollars (約30兆円)という莫大な赤字を背負う事になりました。(CIHIウェブサイト)
黒字大国であったカナダはいっきに赤字経済国に陥り、今後の財政立て直しに舵を戻したところです。しかし、カナダの信用格付けは依然としてAAAとして最高数値を維持していることで、同国の財務状況は正しく保たれている事を物語っていると思います。カナダという国は以前からコンサバでリスク回避国として知られています。よって、銀行などの金融企業数も限定されており、金融商品などでもリテールレベルでは多くのアメリカに存在する商品は存在していません。
同時に、カナダ中央銀行の役割は大きく、経営者の判断力は常に長けたものがあります。例えば、リーマンショック時やコロナ禍時も経済と社会への影響を最小限にする為に、上記でも申し上げたように、即時の大型資金支援対応策を導入してきました。その結果、経済的にも社会的にも既に回復に向かっているカナダという国と経済が存在していると思います。
ただ再三にもご説明させて頂いているように、カナダの人口薄は大きな問題で、都市が疎すぎる事は経済発展上大きな問題です。バンクーバーやトロントなど単体で見れば、人口密度は高く、経済的意欲は十分備えています。しかし、それら都市が少なすぎ、地理的にも離れ過ぎています。バンクーバーにおいては更に立地上の制限が多く、自然に囲まれた地理は経済と社会拡張を妨げています。
3)バンクーバー不動産市場の状況
全ての不動産セグメントでは土地の高騰が100%を超える案件も少なくなく、開発は大型の高層ビルのみが経済的に見合う手法になってしまっています。オフィス業界においては未だ在宅勤務が推奨されている中、今までのサブリース案件は殆ど市場から下され、全体的な空室率は6.2%、インダストリアルにおいては0.5%という脅威的な数字が打ち出されました。
結果、賃料においてもインダストリアルでは、コロナ禍前では小規模倉庫で$15psfだったものが、現在は$18psfまで上昇しており、物流倉庫では$15psfを超える価格提示が行われました。住宅においても供給が間に合わずに価格の値上がりが市民の生活を圧迫し続けています。バンクーバーの住宅価格中央値は$1,200,000(1億600万円)を超えており、収入中央値の$92,000では家を所有する事は不可能な状況です。
供給を可能にする上でも行政システム(建築申請プロセス)の向上は待ったなしの状況です。例えば、バンクーバーにおける建築申請は2段階のプロセス(開発申請と建築申請)からなりますが、弊社が取り扱う物件サイズ(約5,000坪)でも建築着工まで現在約18ヶ月の年月がかかっています。行政の審査が長引く事で、建築期間は延長し、最終価格に直接影響しています。
同時に、バンクーバーがアジアの最短距離都市である事で国内外からの注目度は高く、今後も需要は継続して向上していくと思います。そのような中、インフラ整備を遂行中のバンクーバーですが、既存のシステムは古く、世界が求める世界都市の条件とカナダ人(バンクーバー人)が想う世界都市には理解のギャップが存在していると思います。ですから、今後10〜15年の間でインフラ整備が行われると同時に、バンクーバー人のメンタル面も世界都市人としての認識が芽生えてくるのではないかと思っています。
2021年は大掛かりな支援金の継続とワクチンの影響で経済と社会ともに回復の兆しがあった年でした。不動産セグメントにおいても加熱状態は継続しています。
KM Pacific Investments Inc.代表
枡田 耕治
YouTube: KM Pacificオフィシャル
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