今回のコラムでは、2021年10月末に行われたCB Richard Ellis社のカナダおよびバンクーバー市場アップデートセミナーを元に、私達の見解を述べてみたいと思います。
目次
1. カナダ国内不動産市場
1.1 カナダ国内不動産市場のオフィス
1.2 カナダ国内不動産市場のインダストリアル
2. バンクーバー市場
2.1 バンクーバー市場のオフィス
2.2 バンクーバー市場のインダストリアル
2.3 投資
1. カナダ国内不動産市場
CBREカナダの副会長のPaul Morassuti氏は「良いニュースの方が悪いニュースより多い」と纏め、カナダが回復の道を辿っている事を強調しました。投資活動においては2021年の第2四半期時点で全ての不動産セグメントが4四半期継続して上昇していると話しています。
特に一般投資家による売買が牽引しており、REITなどの機関投資家の姿はないと話しています。しかし同時に、REIT(不動産投資信託)は本年10か月間で既に23%の上昇を見せています。よって、コロナ禍により金融市場もやや継ぎ接ぎ状態ではありますが、安定して基礎は強いと説明しています。
REITや機関投資家による投資には様々な条件が設けられていますが、個人投資家の場合には投資条件は柔軟に考えられ、将来的な可能性に賭ける事が多いので、このように個人投資家が投資に意欲的かつ積極的である事は将来の市場を語る上でも大切なバロメーターになると思います。
同時に、来年には金利の上昇も考えられるので、その前に物件を購入して金利をロックイン(定期で固定する)動きが表面化しているのかもしれません。どちらの場合においても、将来的展望が明るいと見られている象徴だと思います。
カナダ国内不動産市場のオフィス
オフィス業界においてはハイテク業界が邁進しており、需要を牽引していると話しています。第2四半期時点で大型ハイテク企業の株価はすでに123%上昇しており、今年だけでも14のユニコーンベンチャー¹が発足しています。投資リターンベースでも米シリコンバレー、中国に続いて3番目に位置している市場です。
¹ ユニコーンベンチャーとは、市場総額が$1 Billion(約8,000億円)を超えるベンチャー企業のこと
また、2021年のハイテク業界での雇用率は93.8%上昇しており、2021年では一般オフィス雇用が18万人に達しましたが、ハイテク業界は24万人の雇用を生み出し、4人に一人がハイテク企業で働いている計算になるとの事です。
スペース不足は国内全域で起きており、特にトロント、モントリオールやバンクーバーに於いては需要が供給を大幅に上回る事態が起きています。ただ、現在の需要に見合う供給が提供されるまでには時間がまだかかると話しています。
同時に、出社勤務状態(Return To Office: RTO)も第4波の影響で全体的に延期されており、オフィス市場の行き先は未だ不明です。(注:契約は締結されているので、空室は存在しませんが、社員の出社がないのでオフィススペースは日々空状態になっていると言う意味です)
現時点では2022年の1月までオフィス復帰を延長している企業が多いですが、1月は冬の真只中で、インフルエンザの季節である事から、1月のRTOもさらに延期されるのではないかと予測しています。
よって、ここで注目を浴びるのが将来的仕事の環境や姿です。CBREは今後も柔軟で流動的な仕事スタイルは継続すると予測しています。例えば、米政府総務局であるGovernment Services AgencyはWeWorkにUSD50 Million(約53億円)の契約を与え、政府職員が省庁に出社しなくても働ける環境を整えていると報告しています。世界的に有名な英国銀行であるStandard Chartered Bankも同じ様に世界的に社員の勤務環境を調整しているとの事です。
各不動産会社の調査結果でも、従業員は在宅勤務や同等の柔軟な勤務体制を好む人が多い中、生産性の比較では在宅勤務はオフィスほど優良環境ではないと言われています。よって、企業はRTOを望んでおりその準備に入っているものの、今まで強制的に在宅勤務を強いられ、その環境に慣れてしまった従業員をオフィスに戻すのは至難の業だと思います。もちろん毎日オフィスへの出社させることが今後のノーマルになるのは難しいと思います。
よって現在、企業はアメニティーなどを導入、または充実させることでRTOを達成しようとしています。ただ、短期目的としてはこの試みは良いものの、長期ではこの過剰なテナント工事の会計上の償却が困難になり、マクロ経済にどれだけ影響があるのかは、まだ未知数です。
カナダ国内不動産市場のインダストリアル
需要は歴史的にみても非常に高い数値を指しており、賃料は過去3年間で35%上昇していると報告しています。全国平均空室率も2%以下で保たれており、短期的な答えが見つからない状態です。このような加熱状態の需要では企業もJust In TimeからJust In Case(予備の為)戦略にサプライチェーンを変更しており、更に物流、貯蔵、配送倉庫への需要が上がっています。
結果、国内全体でも60万から100万平方フィート(55.8万平米から93.0万平米)の新規スペースが供給されましたが、空室率は一向に上がっていません。CBREは物流コストの中で配送関係は60〜70%を占めていますが、不動産コストは全体の5〜7%にしかならない為、不動産コストは物流供給を実現する上では惜しまないのが業界内の常識である、と説明しています。
インダストリアルにおいては、サプライチェーン自体も作業の自動化から効率の上昇や通路を狭める事での許容容積の上昇を図り、改造が行われています。また、都心部ではラストマイルデリバリーとして複数階化が自然の流れとしています。これらは全て同日配送やネット業界の需要を満たす流れから来ているとの事です。
既にバンクーバー近隣のシアトルでは、プロロジス社により日本にも存在する様な自走式複階数大型倉庫が竣工され、バンクーバー圏内でも現在着工が進んでいます。今後はこの様な物件がさらに増えると思われます。
2. バンクーバー市場
バンクーバーの不動産業界は三つのVで纏められました。
- Vaccination(ワクチン接種):
カナダは先進国の中でもワクチン接種率が高く、国の方針により公共の場や飲食店への入店には2回のワクチンを接種済みであることが義務付けられています。その様な中、BC州
の接種率は72%に達成しており、通常生活は回復しつつあると話しています。 - Vacancies(空室率):
供給を上回る需要が全国的に空室率を低下させています。現在国内の主要市場では空室率は継続して低下しており、良質なスペースが不足しています。 - Victories(勝利):
このコロナ禍の状況ですが、カナダはすでに経済的回復の道を辿っています。国内総生産(GDP)は2019年より1.8%上昇、雇用者率は2021年内だけでも1.5%上昇、リテール販売額は11.8%上昇していると報告しています。
特にオフィスではライフサイエンス(医療研究)分野の成長が著しいい事を挙げ、この業界がオフィス業界を牽引していると報告しています。よって、「Resilience(反発力)」や「Robust(逞しさ)」が、不動産業界を表すのに相応しい言葉だと纏めています。
また、同時に参加していた大手数社の代表達はバンクーバーのユニークさ(唯一性)について下記のコメントを残していました。
バンクーバー市場についてはCBREのコメント通りだと思います。バンクーバーという市場は不動産の中でも比較的新しい市場であり、今後は新規産業の参入によりハイテク、医療研究、映画産業などが飛躍していく場所だと思います。バンクーバーは南北の西海岸に所在する事からくるハイテク業界の飛躍メリットだけでなく、国、州、市の信用格付けが多大なる国際的な信頼をもたらしおり、不動産以外の業界に於いても今後のバンクーバーの魅力を引き上げる事になると思います。しかしその上で、立地条件上の土地不足という供給面でのハードルをどの様にクリアしていくかが焦点になると思います。
バンクーバー市場のオフィス
一時的な需要の軟化が起きていますが、これは新規物件への需要が上昇している事から来ています。実際、弊社の第3四半期市場レポートでもAAAとA物件では空室率が低い事を取り上げました。特にハイテク、ゲーム制作会社などはダウンタウンのオフィススペース賃貸に意欲的で活発です。よって、賃貸意欲がある中、納得いくスペースが不足している為、多くのテナントは「待ち」状況になっています。
また、時間的な余裕がなかったり、今後の更なる価格上昇を懸念する企業は区分所有物件の買収に走っており、区分所有セグメントは想像以上に需要を集めています。同時に企業はサブリース対象にしていた自社スペースを市場から取り下げ、今後の自社使用予定に組み込み直す傾向にあると報告しています。しかし、国内同様でRTOが延期され、リモート環境が継続される事で、雇用社がどれだけ会社と同じ環境をリモートで働く社員に提供できるかが未だ疑問視されています。
バンクーバーの市場は今後も上昇していくと思います。前回の本格的な新規竣工物件の供給は1980年代に金利が劇的に上昇する前のことでした。よって、もう30年間は満たされる供給がされて来ていない事になります。ここ2〜3年の間で新規供給は若干されたものの、慢性的な供給不足の改善には至っておらず、経済成長を起因とした需要の増加には間に合っていません。
ただし、この先も継続して供給はされていくと思いますし、賃料の上昇も継続して起こると思います。コロナ禍によるRTOへの一時的懸念も存在しますが、殆ど強制になりつつある予防接種や雇用主の継続的生産性の向上意欲²が今後のオフィス需要を引き上げ、空室率もコロナ禍期前まで戻ると思います。その上で、必要とされる供給はAAAの高層ビルだけではなく、全クラスのオフィスビルの供給が求められると思います。
ここで懸念する事は、新規開発といっても土地不足により既存の物件に対する再開発に限られ、また建築資材の大幅な高騰がどこまで新築開発を可能にさせるかだと思います。バンクーバーのオフィス業界は同業者としても注目していきたいところです。
² 在宅よりオフィスの方が生産性が高いという考え
バンクーバー市場のインダストリアル
過度な需要により供給が切迫しています。空室率は0.6%と前代未聞な状況を示しており、賃貸可能スペースが存在しません。例えば、5万平方フィート以上のスペースは存在しておらず、テナント候補企業は数年先の計画を余儀なくされています。ただ、供給には新規開発しか方法がない為、この先も需要を満たすには時間がかかると思われます。
バンクーバーでは食料品、医療研究、ゲームソフト作成といった分野からの需要が加熱状態で、価格の上昇につながっています。よって、過去3年間で物件価格は73%上昇していると話しています。
よって、開発用地取得の為に、南部、東部、北部の今までは考えられなかった地域も現在は新規候補地区とされています。また、都心部ではカナダの全体的傾向同様に複数階の倉庫建設や倉庫内の自動作業化などが進んでいると説明しています。CBREのコメントでにもある様に、物流産業を含めたインダストリアル不動産業界は現在改革の真っ只中にあります。土地不足の上に需要や建築資材の高騰が再開発へのハードルを高くしており、新規物件の供給やそれに伴う賃料相場の変化が今後の発展に大きく影響をもたらすものと見ています。
特に土地不足と言う条件下で、日本の物流倉庫の様な複階数の倉庫の供給により、賃料の大幅な上昇が吸収可能かなどは、目を見張る点です。物流面での不動産コストは5〜7%と言われ、物資の配給が出来るのであれば、ハードルの低い問題とされていますが、現在の空室率が0.9%という事で新規物件に入居出来ないテナントは物流拠点が遠ざかり、物流において一番高い配送コストが増し、間接的な物資のコスト上昇とインフレにつながると思います。
その上でバンクーバーの様に給料の上昇が停滞している市場では経済へのブレーキになりかねません。また、供給上のボトルネックは大型物流倉庫だけでなく、弊社が行ってきている様なB級のフレックスインダストリアル³などへの需要も継続して存在します。ただ現状は大型物件しか再開発・改築コストが見合わない現状になっているため、再開発も限られてしまっているのが現状です。よって、テナントとしては非効率な倉庫を仕方なく使っている場合も多々あります。これも間接的にマクロ的なコスト上昇につながる要因だと考えます。
よって、インダストリアルについては
1)農地専用地区を再度インダストリアル地に戻すことが可能になるか
2)建築資材の高騰を抑えられるか
3)建築申請の期間を短縮出来るか
が今後の行く末を左右するポイントになります。
³ インダストリアル物件をオフィスとして活用したもの
投資
インダストリアル、複合住宅が人気を集め投資家の長期的上昇傾向の裏付けとなっています。特にオフィスとリテールでの需要は予想以上で複数のオファーが売り出し物件に寄せられる状態です。
各大企業の代表はバンクーバーの今後に対して、特に次の2点を挙げています。
私たちは上記セミナーの結果や参加した代表達のコメントからも、バンクーバー市場は需要が供給を上回る状況が継続すると見ており、市場の将来性に確信を示しています。