今回は、現地に拠点を置く不動産投資家として、不動産市場に対する視点をシェアしたいと思います。
1)2022年の動きとその影響
2022年のゼロ金利政策から現在の6%+-状況への変動は、市場に大きな影響と混乱をもたらしました。さらなる金利の上昇を懸念し、購入に踏み切った投資家やオーナーユーザーは多く、結果的に売買出来高は上昇しました。ただ、2022年の下半期に金利が上昇するにつれて、今まで資産構築目的で購入していたオーナーユーザー層の購入意欲は激減しています。床面積の必要性は残りつつ、2022年末には購入から賃貸へ流れが変わっています。結果として、インダストリアルの空室率は歴代レベルで低く、賃貸価格は$20psfを初めて超えました。
物件購入について、金利の高騰により大きな価格変動はないまま、全体的に購入意欲が激減しました。購入者にとっては、これまでは一件の物件に対して即答を求められてきたのに対し、複数の物件という選択肢の中から選ぶという形に変化しています。市場ムード的には購入者に有利になったということはなく、現在も緊迫した市場状況である事に変わりありません。
金利上昇と経済減速により購入者と売主間の「妥当な売買価格」にギャップが生まれています。2023年の現時点では、通常なら締結可能な案件でも、契約締結までに時間を要したり、取引解消などの案件も出ています。これらの事象はバンクーバーに限らず、アメリカ市場(シアトル)などでも起きています。しかし、このギャップも高金利の環境が定着し、経済が減速すると終止符を迎える見通しです。
2)フェデラル・ファンド・レート(Federal Funds Rate)の予測
では、2023年はどのような一年になるのか?直近ではTwitter、AmazonやMetaなどのハイテク企業における大型解雇が発表されたばかりで、他アメリカ企業も経済低迷に対し従業員解雇などの対応を進めています。政策的経済のソフトランディングへの準備も進み、おおまかな処置はすでに施されていると思います。しかし、金利面においてはQ1期間中にFed Rateが再度上昇すると予測しています。上昇率は前回より低めで0.25%ほどに納まるのではないか。つまり、2023年夏以降には経済の回復の兆しが見えてくるのではないかと考えます。
これはカナダ中央銀行の政策においても同じです。1月末の政策会議において、雇用上昇と共に、紛争などの影響で食料品は歴史的な数値で値上がりしたため、インフレ率は依然として中央銀行が望む2.0%からは程遠い数値です。よって、1月末の政策会議での金利上昇は免れない一方で、アメリカの政策と同様に0.25%程度に収まると予想します。
3)オフィス不動産市場の状況と見通し
不動産業界では不安定な状況が続く見通しです。オフィスに関して、コロナ禍後の新しい勤務スタイルが定着していない事から、2023年はこの不透明な状況が続くと思います。これはオフィスの必要性が低下するのではなく、企業におけるオフィスの位置付けや利用方法が変わるという意味です。具体的には、在宅勤務などを考慮したホテリングやオープンデスクなどが今まで以上に好まれるでしょう。リターンツーオフィス(RTO)についてはすでに耳にする機会は多く、勤務用床面積の見直しや社員のためのアメニティスペースの充実を検討している企業も増えていると思います。
2022年は、コロナ禍前に着工を開始したオフィスビルが竣工し、供給過剰になっている市場がありました。今まで計画的に新規物件の供給があったシアトル市場などでは、コロナ禍や経済回復の遅延により空室率が著しく上昇しています。シアトルについては、セントラルビジネスディストリクト(CBD)のオフィスは今後も影響を受ける一方で、Lake UnionエリアなどのIT村における需要はいまも好評です。経済の安定化が見込まれる2023年の下半期半ば〜後半頃にかけて、需要も復活するのではないかと予測します。バンクーバーのオフィス市場に関しては、これまでの供給が定期的ではなかった事もあり、コロナ禍においても需要過剰な現状です。よって2023年は、空室率は継続して低いまま、オフィススペースへの需要は安定するでしょう。また、バンクーバーは、アメリカ(シアトル)よりコロナへの対応が大らかで、RTOは感染懸念というより、社員の利便性と福利厚生の一部として考えられていると思います。
4)商業不動産市場の状況と見通し
インダストリアルにおいては、全北米に共通して供給が緊迫する中、需要が大幅に上回っています。この傾向は2023年も続くと思われ、特に物流施設やラストマイル設備への需要は著しく高まると予測します。さらにこの需要は、今まで盛んだった沿岸都市だけでなく、内陸都市にも拡大しています。例えば、アメリカ・アリゾナのフェニックス市場は、経済の流れの変化とカリフォルニアの土地価格高騰により、現在目覚ましい開発ブームの真っ只中です。ロサンゼルスから車で約5時間という立地はロジスティック拠点の再編として魅力的です。また、フェニックスは砂漠地帯であるが故に、電気自動車産業が発達し、軍事産業も有名です。そういった面からの新規マイクロ需要(ローカル需要)も、物流施設の需要を促進させています。
2022年の建築資材の高騰により、物件の全体的なコストが大幅に上がりました。約15〜25%のコストアップは避けられません。しかし、高まる需要による賃貸の上昇が、コストの吸収を可能にしています。コロナ禍による消費者動向や、経済の流れ(産業、生活スタイル、居住拠点など)は今後も変化し続け、インダストリアル業界における物件の賃料は上がり続けるでしょう。今まで主流だった7〜9%という年率上昇率が何年先まで続くかは、今のところ不明です。
5)カナダ・バンクーバー圏の商業不動産動向
カナダ・バンクーバー圏では土地不足が原因で、今後も引き続き多くの物流拠点が郊外に移っていくでしょう。また、近代的施設の不足も深刻な問題になっています。現在は物件不足から需要は定着していますが、タパ(天井高)の低さや搬出入の非効率性など、質を追求した物件への需要が明確になっていくと思います。さらに、生活コストが高いバンクーバー圏では物流コストの上昇により、価格はさらに上がると見込まれます。その上で、行政がどこまでを深刻な問題とし、現在の農地特定地区(Agricultural Land Reserve)をインダストリアル用地に再設定するかが、今後のバンクーバーの経済拠点としての発展に際し、大きなポイントになると推測します。これは中長期的な問題ですが、2023年の課題は特に「床面積の確保」だと見ています。
空室率が低い状況において、賃料が既に$20psf(平米約1.6万円)を超えたと冒頭でお話ししましたが、この勢いは2023年も続く予想です。弊社が取り扱うフレックスインダストリアルでは、この流れは本来の価格ポイントに近づいている為、投資面からも健康的な証拠だと思います。一方、テナント面からはビジネス営業コストの圧迫と消費の低迷に加えて、家賃が上昇することとなり、それらは大きな痛手となるでしょう。
市場の安定性という観点から、アメリカ市場の方がバンクーバーに比べて安定していると見ています。2023年のインダストリアル業界は引き続き良好でしょう。
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KM Pacificグループ代表取締役社長
枡田 耕治
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