近年バンクーバーでは価格上昇を見越した、スペック(思索的)マンション購入が流行っていました。一番酷かったのは2年前で、その際には多くの応募者が徹夜もしくは数日前から並び出すほどでした。限られた住宅供給が原因で始まったこの動きは、Shadow Flipping(闇の転売)とも言われ、予約購入だけして、竣工前に大きな利益で転売するという社会問題にまで発展しました。

1) Shadow Flipping

予約販売の場合には、まだ建設が着工されていない為、価格も安く、予約金のみの前払いで部屋の購入予約が可能になります。通常のマンション建築は、一年半から2年ほどかかり、竣工時に購入本契約と最終的支払いを済ませて、所有権が獲得できます。この着工から竣工までの期間の購入予約権の転売については、これまで制限や条例がなく、自由に行われていました。よって、現状の高住宅価格に伴い、海外からの投資家や購入意欲のないキャピタルゲイン目的で予約権のみを購入する購入者が激増し、更に住宅購入が難しくなり、当初販売予定価格より値上がりすることも頻繁にありました。このような状況を回避する為にも、一部のデベロッパーの間では、購入者を現地居住者のみに制限する動きもありましたが、その裏を返す様に、アジア系住民の間では、バンクーバー在住の「友人」が海外在住購入希望者の為に、夜明け前から並び、予約権を購入するという動きも頻繁に起こりました。これは良い小遣い稼ぎにもなり、国税局の方でもトレースの出来ない「現金事業収入」として、一時期問題になったぐらいです。また、これら転売も一度ではなく、数回行われることも頻繁にありました。

住宅の「闇の転売」を解消する為にも、不動産協会と国税局は新規条例を導入し、竣工前の転売の全利益は開発者に帰属する事になりました。これにより、転売のメリットが剥奪された事になります。しかし、転売は無くなったものの、主に中国から資産の持ち出しを兼ねた、マンションの投資購入への意欲は減速していません。カナダではアメリカほどのレバレッジは通用しませんが、大概の購入には60~65%の最大の融資を用いられているとの事です。また、一軒家購入を諦めた若輩者世代や、中国以外の新移民層からの需要も多く、特に郊外の鉄道駅最寄りの物件には人気が集中しています。住宅初回購入者には、1~2億円相当のマンションは高級過ぎるかもしれませんが、最近はこの価格層のマンションがとても人気です。情報までにですが、バンクバーのダウンタウンから車で10分ぐらいの位置に所在する、築15年ほどの木造低層の2ベッドルームマンションの価格は約1億円が相場です。ダウンタウンのコールハーバーの1ベッドルームマンションでは、1.5億円相当が相場になっています。同時に、一軒家からダウンサイズする子供達が巣立ちした夫婦の中には、着工中のマンションの隣同士の2~3室を同時に購入して一軒として使う住み方も増えています。床面積上では3室のマンションの方が減りますが、これら富裕層の夫婦はダウンタウンへのコンビニエンスや、セキュリティーやコンセルジュ・サービスなどを含むマンションのアメニティー等を重視したマンションへのダウンサイジングを決断している様です。

2) 住宅購入センチメント

よって、住宅購入者全員が外国人という事はありませんが、現地センチメントは外国人の住宅購入を制限する方向に進んでいます。(この場合の外国人とは、カナダの永住権か市民権を保持していない住民、旅行者になります) 最近の調査では、実に86%の回答者が投機を目的とした住宅購入と外国人による住宅購入がBC州経済と生活を脅かしていると回答しており、78%の住宅所有者はなんだかの条例を導入する事で、住宅価格の上昇を抑えるべきと回答しています。また、回答者の6割が外国人の住宅購入禁止に賛成しており、自分たちの住宅資産価値が低下しても、外国人購入を禁止すべきであると考えています。他国の中でも、オーストラリアなどでは、すでに外国人の不動産購入は禁止されており、カナダが初めてにはなりませんが、今までの国家的流れが、オープンでウエルカムというスタンスを取ってきているため、この動きの行く末は、今後のBC州(カナダを含む)の海外投資や経済へのオープンネスに影響が出てくるのでは無いかと少々懸念する流れでもあります。

ただ、問題は既にバンクーバーでの生活は、高額で金銭的に困難な状況に追い込まれている為、今後投機的購入や外国人購入を防いでも、当分の間は今までの需要が継続し、高額状況が続くと思われます。また、住宅価格は経済サイクルの一環で住宅コストのみを降下する事は出来ない為、この状況をどう乗り越えるかという問題は、解消されないままになります。以前のブログでも書いた様に、バンクーバーの将来は国際化とハイテク、医療系研究やスイス・チューリッヒやリヒテンシュタインの様な富裕層を中心とした資産運用中心の経済都市に成り変わって行く上で、現在住宅難民になっているブルーカラー職人や専門職を持たないワーカーの職務技術調整をどうするかは重大な問題だと思います。しかし、これも国際化に順応する上での、副作用であると思っており、行政の舵取りに注目する所だと思っています。

これから日本は雨季に入る頃と思いますが、天気に負けずにお互い頑張りましょう。