前回のオフィス市場レポートから約一ヶ月が経ってしまいましたが、この2月に行われた、バンクーバーのインダストリアル市場についての朝食会から現状をお話ししたいと思います。結論としては、バンクーバーのインダストリアル市場はこれからもタイトな状況が継続すると予測されます。
1)バンクーバーの現状と成長要因
2018年末のバンクーバー全体の空室率は1.4%で、現在5.9MM平方フィート(約59万平米)が建築中物件ですが、うち65%(2019年2月時)については、既に売却(賃貸)予約契約が締結されています。土地不足に常に悩まされるバンクーバー圏(今まで「広域」と表示していたものを「圏」と再表示しました)では、2016年第3四半期までは年率34%の成長率を達成してきましたが、現在は年率4%に留まっています。しかし、近年の需要成長率を見ると、バンクーバー圏では52%(空室率1.4%)に対し、米シアトルは53%の成長と共に2.9%の空室率を示しています。
この需要の成長理由ですが、基本的にはマクロ経済要因が占めており、1)安定して継続する移民からの人口増加(2018年では毎日86人が新規移民としてカナダで生活を始める計算になるそうです)、2)低金利、3)新規物件への需要がメインの動力になっています。その中でも、eコマースからくる需要には著しい成長を見ます。また、3PL(荷受け作業)、テレビ映画制作、食品業界からの需要も目立ちます。eコマースでは、当日配送などを請け負う為に、Urban Burnという現地のスーパーチェーンでは、現在の6万平方フィートの倉庫を一気に15万平方フィートまで拡張しています。食品については、特にアジアからの輸入が多いのも、現地バンクーバーの生活環境の変化を表していると思います。また、最近合法になったマリワナ関連製品については、未だ将来的成長が見えていません。
2)リスクについて
もちろん、リスクは存在します。その中でも一番大きいのが、政治的要因です。一昨年から政権を握る左側政党のNDP(新民主党)の継続が一番の不安要因とされており、20年ほど前に政権を握った時の経済崩壊を再度引き起こすのではないかと懸念されています。また、米中両国との貿易が多くあるカナダとしては、米中摩擦も懸念事項の一つですが、この摩擦や一般的米国内政治のあり方などに懸念を表する企業の進出により、カナダでは副作用的利益も現れています。また、国内事情を見ても、バンクーバー独自の環境メリットに付け加え、需要は供給の3倍あり、低金利や、eコマース発達による人材の流入環境も不動産業界の繁栄を後押ししています。今後のインダストリアルの発展は、供給量で決まると言っても過言ではないと思います。現状、年間約1,400億円相当の物件が売買されており、2016年からは価格も年27%程上昇し続けています。この様な状況から、現在は物件所有に注目が集まっており、目先の損得勘定より将来的な資産の構築が判断基準になっています。また、賃貸物件に入居するテナントの多くは、購入可能な区分所有物件が出てくるまでの短期的ソルーションとして選択しているとの事です。
3)投資家としての参入メリット
その反面、キャップレートと金利の差が100ポイント以上存在する現状で最も打撃を受けているのが、REITなどの機関投資家です。REITなどにとっては、イールドが低すぎて、ビッドが出来ない状況だとREIT関係者は話しています。同時に、インダストリアル用の開発可能な用地が不足している為、デベロッパーなどは環境汚染地を洗浄したり、借地権付き土地を用いた開発ソルーションで現状を回避しているとの事です。
この様な、価格の高騰と賃貸上昇が欠けている市場への投資家としての参入メリットは、疑問も残る所ではありますが、CBRE社のパネリストは、1)供給が限られている為に、今後は賃貸の上昇が伴われ(コストから試算される上昇必要賃料は平米あたり約2,700円です)、2)物件供給には時間がかかるが、需要が常に供給を上回っている為に、販売・賃貸リスクが回避することが可能と解説しています。また、バンクーバーの魅力は上でも触れましたが、立地条件や環境、高生活水準などは、魅力ある市場性の継続に繋がると思います。
このような状況から、日本の主要都市でも見られる、複階数建の大型ロジスティックパークの建設についても、専門家の中では現実的トピックとして出ています。しかし、賃料的にも、現状からは大きなジャンプになる為、建設に至るかは、入居するeコマース会社等が新賃料に納得するかになります。
4)まとめ
最後に2019年の予想賃料上昇率は10~12%になるだろうとの事でした。同時に、トップクラス物件では2.75%を打ち出しているキャップレートは、これ以上下がる事はなく、今後はアセットをベースとしたプライシングになるだろうと、一時的なバブルはやや鎮火する方向にあるとの見方をしていました。
しかし、バンクーバーにおいては、いろいろなセグメントでのニーズが賄われていない為、今後も暫くは需要が供給を上回る状況が継続すると思います。正当なプライシングが用いられる事で、今後は各投資家のスキルが注目される様になると思います。バンクーバー市場はこれから益々エキサイティングな状況が繰り広げられると思います。この様な市場に参加出来ているこの日々を、すごく贅沢に感じる今日この頃です。
皆さんにとってもエキサイティングな一週間になります様に。
関連ブログ
第54話「バンクーバーのオフィス市場のアップデート(NAIOP朝食会からの報告) – パート1」
第55話「バンクーバーのオフィス市場のアップデート(NAIOP朝食会からの報告) – パート2」
第57話「バンクーバーのインダストリアル市場のアップデート(NAIOP朝食会からの報告)」
KM Pacific Investments Inc.代表
枡田 耕治
YouTube: KM Pacificオフィシャル
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