今まで不動産投資についての一連をお話しして来ましたが、今回は締めくくりの売却についてです。どの様な物件でも手法でも必ずいつかは売る時がきます。それが5年後かもしれませんし、20年後かもしれませんし、100年後かもしれません。でも、その時に備えた流れを準備しておくことは大切だと思います。
1)不動産売却の前にすること
売却を考える前には、まずテナントとの問題を片付けておく事をお勧めします。この場合の問題とは、家賃の滞納やテナントによる物件修理箇所の補修などを指します。もし外部管理会社を雇われているのであれば、この様な対テナント問題は管理会社の業務の一部になりますので、早急に対処する様、要求することをお勧めします。なぜ、テナント問題は売却前に解消しておく必要があるかと言うと、問題テナントを抱えて物件を売ろうとすると、悪質なテナントは売却には自分たちの協力が必要になるのを知っているので、それをテコに支払いの控除、若しくは金額の折半などを要求してくる事があります。もちろん賃貸契約書上では支払い義務が発生していますが、管理上の問題などで対応義務が明白でない場合には、賃貸借契約内容とは別の交渉を持ちかけられる事もよくあります。
余談になりますが、この様な事を防ぐ為にも、不動産専門の弁護士による賃貸借契約書の作成はのちの問題を防ぐ大事な作業になります。弊社においても管理上のすべての問題を考慮した賃貸借契約書を作成する事は出来ませんが、以前のブログでもお話しした様に、弊社の通常の賃貸借契約書は約60ページになる書類になっています。このページ数からも考慮項目の多さがご理解頂けるのではないでしょうか。
2)不動産の売却プラン
さて、実務上の売却作業についてですが、まず第一に幾らで売りたいか(または幾らで売れるのか)を把握しておく必要があります。これは個人的な希望価格もそうですが、それ以上にご自分の調査による大凡の市場価格を想定しておく必要があります。そこから、ご自分で納税必要金額や売却後の金銭の使い道などについて、会計士若しくは税理士に問題がない事を確認しておく事をお勧めします。例えば、カナダの場合には日本へ送金するには時間とコストがかかります(これについては番外編でお話ししたいと思います)。また、アメリカの場合では、1031Exchangeというシステムがあり、売却額以上の物件をある一定期間中に申請して購入する事で、納税期間の延期ができる様になっています。
3)仲介業者の選定と仕事
ご自分の売却後のプランが決まったら、次は物件を販売してくれる仲介業者を見つける事です。もし、仲介業者と関係が存在せず、新規の仲介業者を決めなくてはいけない場合には、多くの仲介業者の中からまずは3社程を選定する事だと思います。この時点での選定方法としては、個人的推薦や市場内の売却看板を多く出している仲介業者を選ぶ事は一つの目安です。その後に選定した業者から「Request For Proposal(RFP)」の提出を求めることになります。これは業者による提案書になります。内容としては、市場の説明から販売ターゲット層、方法、期間、フィーの設定方法、各ブローカーのプロフィールなどが記載されています。これにより、仲介業者の真剣さや各サブ市場の理解が読み取れるはずです。また、仲介手数料のお話をすると、北米の売買時の仲介費は大体3%に設定されており、この金額を売主側仲介と買主側仲介の間で折半される事になります。
仲介業者と独占販売契約(Exclusive Listing Agreement)を締結したのちには、通常物件に「For Sale」サインが仲介業者の費用で取り付けられます。売却にかかるマーケティング費用は通常仲介業者負担になります。しかし、仲介業者によっては無料マーケティングの範囲が限られている事があるかもしれないので、詳細については要確認です。マーケティングの内容としては、一般的に仲介業者HPでの物件紹介、新聞広告、パンフレット作成(ハード及びソフト版)と配布、オープンハウス、電話営業などになります。これ以上の営業活動(例えば、オープンハウス時に参加した仲介業者へのギフトカード配布など)は売主負担になります。また、CGなどを使った特殊な営業の取り組みについても殆どの場合が売主負担になります。
契約を締結した時点から、販売活動は仲介業者に委ねる形になりますので、購入候補者による物件視察なども仲介業者が同伴するのが一般的です。よって、売主としては、業者に鍵を渡す事やテナントへの販売告知以外には、オファーが入ってくるまで殆ど関わる事はありません。
4)不動産売却準備のアドバイス
作業が前後してしまいますが、物件売却を考えた時点で、デューデリジェンス時に購入候補者に開示する物件書類を整理してファイルを作っておく事は売却プロセスをスムーズに行う上でも大事なプロセスです。以前はハード書類をバインダーに納めて渡していましたが、この頃は全てをpdfに収め売却専用のフォルダーを準備しておくと良いと思います。通常はファイルが大きくなるので、クラウドベースのフォルダーが一番便利かもしれません。含める書類としても、下記のものが代表的なものになります:
• 賃借対照表(物件)過去3年
• 損益計算表(物件)過去3年
• 銀行のMonthly Statements
• レントロール
• 全賃貸契約書及び改正契約書
• テナントからの禁反言証明書(Estoppel Certificate)
• テナントとの主だったコレポン
• 評価額証明書(Assessment Summary)
• 固定資産税控訴レポート(査定価格の不服を申請した場合の書類など)
• 環境調査レポート(Phase I and II)
• 建築設計図
• テナント工事の許可書
• 屋根などの資産修繕記録
• 一定金額以上の修繕請求書及びレシートなど
記載した書類は全てのものではありませんが、主だった物を書き出してみました。ご覧の通り、書類の量も多く、これらを準備する為にも時間を要するのは確実です。
今回は内容が予定より増えてしまっているので、2回に分けて書き続けたいと思います。よって今週はこの辺で終わりにします。
今週も実りある一週間をお過ごしください。
KM Pacific Investments Inc.代表
枡田 耕治
YouTube: KM Pacificオフィシャル
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