先週の毎年恒例の不動産業界の朝食会では、2020年初めての朝食会という事もあり、今後の市場予測をテーマにしたパネルディスカッションが行われました。3人のパネリストと進行役からなるこの朝食会のディスカッションでは、1時間ほどの意見交換が行われました。パネリストは2名が機関投資家のアセット・マネージャーで1人はオーナーレップの仲介アドバイザーでした。今回の朝食会ではオフィス・セグメントの話がメインになりました。

1)バンクーバー不動産市場について

一番大事な点は、バンクーバーは今後もさらに成長し、注目を浴びていくとの事でした。次の供給の波は2021年後半から23年が予想されており、2025年までには1,200万平方フィートの(約37万坪)AAAグレード高層オフィスビルが竣工される予定になっています。現在のバンクーバー圏の総供給量が71,400,000平方フィート(約7,140,000平米:Colliers)ですので、これは既存の約1.7%に値します。前回の供給の波時には約200万平方フィートが供給された為、ここ5年間のスパンでは約2%の新規物件が供給された事になります。しかし、前回の供給時にも予約販売や事前賃貸契約で殆どの物件は市場に出回りませんでした。また、供給量合計が著しく変動しないのは、バンクーバーの中心部には空き地が存在しない為、既存の建物を取り壊して、再開発することになってしまう事が原因です。なので、高層ビルなどの再開発には相当な時間がかかり、取り壊しから数年かかるプロジェクトは良くある事です。

今回の供給の波でも融資を受けるデベロッパーは事前(販売・賃貸)契約が条件となる為、30%から半分ほどの供給量の締結は建築着工条件になります。よって、竣工時には過半数のテナントやバイヤーが決まってしまっているのも必然的な状況になります。そして、その上に現在(第一四半期半ば)でも約240万平方フィートの供給を増す需要が存在する為、新規物件に対しては早い者勝ち状態になっています。

2)新規スペースへの需要の背景

では、なぜこの様な新規スペースへの需要が存在するのでしょうか?パネルによると、長年新規物件の供給がなかったバンクーバー市場では、テナントが内装を更新する事でその時々の企業としての必要性に対応してきたそうです。しかし、これら内装工事にも膨大な経費がかかる上に、既存の物件では拡張スペースが存在しないために、そこまでの経費をかけた内装改築工事を行うメリットがないと各テナント企業では判断しているそうです。また、今までの企業の傾向は事業の必要性に合わせた内装工事を行ってきましたが、現在の改築工事の基準は人材確保の目的を含めた福利厚生的目的が大きな割合を含めており、築30年から40年経つ建物では、その様な目的が達成出来ない現状にさらされているとの事です。よって、この膨大な内装コストとオフィス自体の役割が変わってきた現状では、新規物件に移り、最初から作り直す方が長期的コスパ面でも良いとの判断をしているそうです。よって、セコンダリー市場に於いて退去後のスペースに入居してくるテナントにとっても、既存の内装状況はまだまだ使えるのが殆どの状況であることから、特別なコストをかけずに移転できるメリットがあるとの事です。また、全てのダウンタウン・ビルは満床である為、テナントが大家に拡張需要について相談する事もないまま、退去申告を受けた時点で、初めて大家側も状況を把握するというマイナス循環になっています。

しかし、現状の市場構造では、既存企業が新規オフィス・スペースを求めて移転する上に、多くの新規参入IT企業が事業拡張予備軍としてタイミングを見計らっているとの事です。次のアマゾンやマイクロソフトになるかは別として、多くの地元および米系IT企業はバンクーバーに小さなスケールで基盤を築いており、新規供給と共に拡張を予定しているとの事です。上でもお話しした供給を上回る240万平方フィートの需要の過半数はITセグメントから来ており、オフィスの内装グレードも高い仕上げになると予想されています。よって、新規物件へは上向きの価格競争が勃発する事は想定内であり、現在の一平方フィート約70ドル(一坪約189,000円の基本賃料プラス坪約10万円の共益費)の年間賃料も更に上昇する見込みです。しかし、ニューヨークやサンフランシスコにおけるUSD100を超える賃料と比べれば、まだまだ経済的で魅力のある市場と位置付けされると思います。

3)今後の見通し

しかし、前回の供給の波時同様に、テナントの移動がおさまる2022年には、賃料も一時的に下降修正すると予測されています。これは既存物件で退去後の空室を埋める為に、大家が賃料を下げて新規テナント募集を掛ける結果です。移転する企業の数と退去するスペースが半端なく大きい事が直接の原因ですが、空室になるスペースの量によって、新規募集価格にも変動が出るだろうとの事です。この様な将来的変動に備え、テナント募集の際に求められるビルのアメニティーについては、屋上のテラスが一番の人気項目とのことでした。それ以降は特別な順番はありませんでしたが、公共のラウンジ、フィットネス(ヨガ)や、携帯などからアクセス出来る賃貸スペース内の管理(照明、温度など)が出ていました。また、初めて聞いたのが、配達物受け取り用の冷蔵庫だそうです。テナントの従業員がネットで食料品などを購入した際に、オフィスを配達先にする場合が多く、配達時の保管冷蔵庫への需要も多いそうです。

2020年初回の朝食会でしたが、バンクーバーの不動産への意欲は今後も継続して高いと思われます。その上で、土地に制限があり半島に位置するこのバンクーバー市が今後どの様に展開されていくかが見ものです。この点については、次週のブログでお話しする事にいたします。