今週は2月から起こっているCOVID-19ウィルスから不動産業界への影響について、CB Richard Ellis社がセミナーを開催しましたので、その内容をお話ししたいと思います。カナダ不動産市場の状況を一言で表すと、基盤はしっかりしているものの、経済への影響が不透明な為、不動産業界も当分の方向性がはっきり見えていないのが現状です。

1)オフィス

各市場のオフィス業界は政府の街閉鎖宣言により、閑散としています。5月の中旬から段階的な開放が始まる事で、今後のオフィス業界の状況が確認できるという状況です。しかし、今後の需要を左右する要因としては、1)コロナで始まったリモート仕事環境からの働き方の行方と、2)経済が再開しても物理的距離感を保つためにオフィス内の使用方法が変わる事です。CBREは各従業員に対しての床スペース比は1:250平方フィート(約25平方メートル)ぐらいまで上昇すると見込んでいます。今でこそ、社員一人に対しての床スペース比率は1:150平方フィート(共有部を含め)ほどまで減少しましたが、25年程前はまだ1:250が一般的な配分でした。

今後の不動産投資では賃料収入レベルは依然として鍵を握りますが、各テナントの信用や支払い能力などが今まで以上に重要なポイントになると話しています。しかし、コロナが始まってから空室率は約3%上がっただけに留まっており、短期的な影響はあるものの、長期的な影響は限られているか、変化はとてもゆっくりだろうと予測されています。

2)インダストリアル

インダストリアルは全国的に依然として好調です。特にコロナによるネット販売の増加により、インダストリアル物件への需要は上昇しています。そしてハイテク、リテール、物流を混合した需要が増えており、統計上どのサブ分野が伸びているのか明確な答えが出せなくなっているのも現状です。しかし、いわゆるLast Mile Delivery(最後の各家庭への配達部分)は、この状況から今まで以上に重要視され、不動産価格よりこのニーズの埋め合わせの方が優先順位が高く、テナントとしてはある程度の賃料の膨らみも許容範囲内として覚悟している様です。

今までも需要が供給を勝る状況だったインダストリアルセグメントは、今後も相変わらず高い需要のセグメントとして注目を集めるでしょう。そして、インダストリアルへのコロナの影響はマイナス点よりプラスが多いというのが見解です。

3)COVID-19

世界的に見て、カナダの対応と現状は経済面を含めて世界でもトップレベルだろうとCBREは報告しました。不動産業界は全国的に基盤がしっかりしているとの事です。10年の国債金利は1%以下で、巨額な債権買取りがカナダ中央銀行によって行われていると同時に、各銀行による融資枠も制限されていますが継続して存在しています。

4)経済学者の見解

大手のカナダ銀行の一つであるカナダ帝国商業銀行(CIBC)のチーフエコノミストは、今後の経済状況をワクチン開発前とワクチン開発後の2つのフェーズに分けて見ることが必要と話しています。そしてカナダの2度目の感染拡散もこの秋から冬にかけて起こるだろうと予測しています。これは主に夏の間に国民が今までの規制を無視して各々の距離間が狭まる事により、起こる拡散と説明しており、当分は経済も上昇と下降を繰り返す事になるだろうと説明しています。夏季以降の経済は景気後退型となり失業率もCOVID-19前の5%弱から7~8%まで上がるだろうと予測しています。ちなみに現在5月時点での失業率は約13%です。

しかし、ワクチン発明後の経済回復は2022年から始まり、成長が予測されるとしています。

また、現在カナダ連邦政府は既に$250 Billion(約21兆円)相当の救済プログラムを発表し実行していますが、さらに発表された最低でも10兆円相当の救済プログラムについて、CIBCのチーフエコノミストは色々な抜け穴は存在するものの、経済と国民の生活救済が最も大切な目的である事から、どうやって支払っていくのかが問題ではなく、この先も引き続き支払い続けるだろうとコメントしました。昨日のトルドー首相の発表でも、まずは「国民の生活基盤を守る事が優先」と話していました。

この様な事態の場合には、カナダのAAAクレジットレーティングは本当に救世主です。このコロナによる債権レベルについても、エコノミストは21兆円を展開した現時点でも、カナダの債務額はOECD加盟国の平均以下で、COVID-19前の日本は勿論のこと、アメリカなどよりも低いとコメントしています。この様な仕組みが可能になる説明として、金利が最低レベルにある事から、政府が新規国債を発行しても、既存の負債をリファイナンスする事で、現在発表されている$350 Billion(30兆円)の救済プランはコストが増す事なく打ち出せるとの事でした。

「このコロナからのプラスな現象は?」と問われた際に、CIBCのチーフエコノミストは1)地域経済重視が起こり、今までの中国に過剰に頼りすぎた経済関係の低下、2)本格的なハイテク重視の経済体制の始まり、3)資産の再分配、4)教育システムの見直しなどが得られたと最後にコメントしていました。

BC州はこの5月16日のロングウィークエンドを封切りに、段階的に封鎖していたサービスを再開していく事になりました。今週末からレストランなども再開し、学校も6月1日から部分的に再開されるそうです。第二波からの影響が過剰でない事を願い、1日も早く通常の生活に戻る事を願っています。