前回のパートナーシップと良く比較されるのが、Limited Liability Company(リミテッド・ライアビリティー・カンパニー=有限会社)です。LLCにはパートナーシップと類似する点が複数存在し、投資ファンドなどで頻繁に用いられます。
1)LLCのメリット
LLCの一番大きなメリットは「柔軟性」です。注目を浴びる理由は、設立条件が少なく税的優遇性があるためです。例えば、設立申請書類の量が少なく、同日中に設立することができ、資本金は1ドル〜可能です。基本的にLLCは株式会社になるので、株主数という面では制限がなく、解散するまでエンティティとして継続可能です。そのうえ、複数の株式のクラスを用いることができるので、投資参加時に株式のクラスを変更するなどして、各クラスの条件を設定することが可能になります。これに対しパートナーシップにおいては、組合契約書には「新規投資家の参加が運営者の一存で可能」と記載されることが一般的です。パートナーシップの場合には全ての有限責任投資家からの承諾が随時必須になり、事務的処理が嵩んでしまいます。
アメリカの場合、国内どの州で設立されたLLCであっても他州で活用できるメリットがあります。これはLLCに留まらないシステムです。この柔軟性により、弊社でもデラウエア州でLLCを登録し、ワシントン州の物件に投資をしていく予定です。
また、運営者にとって大きなメリットは、パートナーシップのような無制限責任者であるジェネラルパートナーが必要ない点です。LLCでは全員が有限責任者になりますので、運営者の金銭的責任も出資金までになります。投資家がこの点をデメリットと懸念される場合もありますが、購入時の投資資産の評価が正当で急激な価値の変動がなければ、投資家が所有する株式への影響はないものと思います。また、運用する上で、不動産物件の評価額は継続して上昇する前提であり、この点においても投資家は保護されると想定されます。
LLCの最大のメリットは「税的優遇制度」です。LLCは会社ですが、税務上都合の良い資産の一時的保管場所として位置付けられています。よって、LLCから発生する収入や損益は株所有割合によってパススルーされ、各投資家が確定申告によって税金を納めるようになっています。もちろん、LLCとしても確定申告を準備し、それを付随書類として各投資家に配布する義務があります。また、これは同国内投資家の場合になります。米LLCを保持する日本の直接投資家が参加する場合には、源泉徴収を納めた後での配当になります。
2)LLCのデメリット
LLCにもデメリットはあります。まず、国によってはこのシステムの税的優遇性が尊重されない事があります。カナダが良い例です。カナダではLLCはC-Corp(一般株式会社)とみなされ、収益のパススルーが認められません。よって、カナダからアメリカのLLCに投資をする場合には、キャピタルゲイン税が加算され、LLCを用いるメリットがなくなってしまいます。よってカナダではLLCは用いられず、パートナーシップで纏められる構造がほとんどです。
そして繰り返しになりますが、海外からの投資にはLLCのメリットは適用されません。国内在住の投資家が対象になるので、日本在住の投資家がこのメリットを受けるためには、アメリカ国内で会社を立ち上げ、税法上は投資家(会社)が国内在住者である必要があります。これにより、米国内から日本へ還金しない限りはLLCのメリットを受けられます。
さらにLLCの特有性を用いて、連携構造を組み合わせることで幅広い投資家層をリスク別に呼び込むことができ、一ファンドの中でも多様な要望に応えることが可能になります。
3)パートナーシップとLLCの比較
パートナーシップと比較した場合、LLCにおいても
1)Subscription Agreement(投資参加契約書)の締結は証券取引法による制約が課されることで必須となり、
2)投資管理費もパートナーシップ同様に経費として計上されます。
またOffering Memorandumの作成が義務付けられ、投資参加前に投資家候補に配布されることになっています。
よって、パートナーシップと有限会社の構造上の違いは存在するものの、大まかな構造に違いはありません。どちらを選択するかは、各投資先の法務及び税制、運営利益と運営者の判断に委ねられると思います。また、継続性の維持という面からは、有限会社構造はパートナーシップ構造より柔軟で簡易的になります。
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KM Pacificグループ代表取締役社長
枡田 耕治
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