企業の中には子会社の設立や海外企業の買収によって海外進出する場合もあると思います。国や地域によって法律が異なりますが、このコラムでは私たちが本社を置くカナダ(ブリティッシュコロンビア州、以後BC州)の投資ストラクチャーの特徴を見てみたいと思います。
目次
1. カナダの法人税
2. ダイレクトインベストメント
2.1 特徴
2.2 法人設立にかかる時間と負担費用は低め
2.3 法人の設立要件と法人税に対する優遇処置
3. ベアトラスト
3.1 特徴
3.2 Nomineeについて
3.3 構造上の問題点
3.4 ベアトラストのメリット
1. カナダの法人税
投資ストラクチャーに入る前にカナダの法人税を見ておきましょう。
カナダのメインの法人税には連邦法人所得税(Federal Income Tax)と州法人所得税(Provincial Income Tax)があります。後者の州法人所得税は文字通り州によって税率が異なりますのでここでは割愛します。
今日現在、連邦法人所得税は課税所得の38%ですが、企業がCCPC(Canadian-Controlled Private Corporation)であることを前提に、そこから一律-10%の連邦の軽減税率が適用となり、一般所得税は28%になります。そこから一般減税を得ることで、最終的な連邦法人税は15%になります。企業が中小企業であった場合には最終的な連邦法人税率が9%まで軽減されます。先述の-10%の軽減税率はカナダ国内で得られた所得にのみ適用され、企業が州法人所得税を賦課する場合にはそこからさらに-13%の減税を享受することができると言うわけです。
CCPCとみなされるためにはいくつか条件があり、それらが全てクリアされている必要があります。例えば、
・カナダで設立された、もしくは現在に至るまでカナダ国内で企業登録されている
・税務上のカナダ居住者によって運営されている
等です。また海外企業による配当金、利子、キャピタルゲインの所得は海外の非事業所得とみなされます。詳しくはカナダ歳入庁の所得税ガイドをご覧ください。
2. ダイレクトインベストメント
ダイレクトインベストメントは投資手法の中でも、非常にシンプルな直接投資になります。ここでは海外の企業が単独一社でカナダ(BC州)に海外企業の子会社を設立する、という例で考えていきます。具体的な設立方法に関しては、各専門家にご相談ください。
法人設立時にかかる時間と費用はあまり掛からない
弁護士などを使って簡単に登録出来るのはメリットと言えます。BC州の場合には、2021年現在で通常2~3日での設立が可能で、書類のみであれば同日中に完成し、残りの日数は行政の方で承認するために必要とされています。費用は約$2,000(18万円ほど)になります。もちろん、この価格は弁護士費用も含まれるので、どの様な弁護士を雇うかで費用も変化してきます。
そして、SPC(特別目的会社)などを含め全ての企業は、毎年確定申告と企業報告書を国税局と州企業登録庁(BC Registry)に提出する必要があります。登録庁への登録更新費は一年$350ほどです。
法人の設立要件と法人税に対する優遇処置
連邦法に則って法人設立する場合には、取締役の25%以上(3人以下の場合は少なくとも1人)がカナダ居住者である必要があります。現地に居住できる執行役員レベルの社員を確保することは容易ではありません。
また、法人税の軽減はあくまでカナダの州または準州でその年に得られた課税所得に対してのみ適用されるので、外国企業である親会社から注入された資金に対しては適用外となり、現地企業同様の税的優遇を受けることができません。ただし、カナダ国内で自社収入などが発生すればこの規制は取り除かれます。
カナダ自体、スタートアップビザ(起業ビザ)を使った移民制度があったりと、外国人や外国企業の営業活動に非常に積極的な印象を受けます。そして、カナダの税率は魅力ある数字だと思いますが、全ての法人に適用されるわけではないので、外国会社の子会社を設立する場合には、それが優遇税率が適用される法人かどうかも専門家へ事前に確認するべきポイントの1つです。
3. ベアトラスト
BC州のベアトラストも、日本国内の信託と信託受益権を用いたスキームに似ています。
特徴
ベアトラストは物件売却時の税的効果を重視した仕組みです。構造的には、運用権利を受益する法人(以下、Beneficiary)があり、その下に物件所有者として土地管理局に登録される法人(以下、Nominee)があります。ここではNomineeとBeneficiaryが明確に分けられていることが前提です。
個人、法人企業、組合、ジョイントベンチャーなど様々な形態がBeneficiary/Beneficiariesとして当てはまります。Nomineeは全くのペーパーカンパニーと同じ状況で、非活動法人になっており、物件を売却する際にはこのNomineeごと売却します。そして、Beneficiaryは売却時に解散され、登録が抹消されます。
Nomineeは、Beneficiaryが不動産を売却する際には、土地そのものではなくNomineeの株式を売却することで土地譲渡税を発生させずに売却することができます。この方法は他の州ではすでに不可能となっており、BC州でも取り締まりに向けた動きが高まっています。(Canadian Tax Foundation)
Nomineeについて
まずはNomineeについてですが、物件所有はするものの商業活動は行わないので所得税の課税対象外になります。ですから、Nomineeの代わりにBeneficiaryが物件購入費や開発費を計上し、売却で得た収益に関しても全てBeneficiaryに帰属します。ただし、法人税はNominee に対しても毎年賦課されます。
またこのNominee は最終的には売却される法人なので、次の購入者が安心して会社ごと購入出来るようにしなくてはいけません。ここでいう「安心」とは、売却時点で法律や税的に問題を抱えていないという意味です。
Nomineeを非活動のペーパーカンパニーにするのは、例えば税金の未払いであったり、法的に第三者から訴えられる可能性を防ぐ目的があります。運営実績がなく会社の中身が空でクリーンであれば、購入者が法務局や市役所にNomineeについての問い合わせをしても、記載報告事項がなく安心して購入出来るという事になります。逆に何か報告事項が記載されている場合には、クロージングまでに売却者が全ての事項を抹消し、問題なくクロージングで引き渡すか、売却者が、購入者と交渉の上、ある一定期間の第三者に対しての責務を追う契約書を締結するのが普通です。
構造上のリスク
これにより、購入者にとってもある程度のセキュリティが与えられる事になります。しかし、ベアトラストの構造のなかで、物件を所有する会社ごと購入することのリスクはこの先に存在します。万が一、購入後に問題が発覚した場合には、購入者の防衛は自動的に行使される権利ではなく、購入者が売却者を法的な場で訴え、ダメージを受けた事を証明する必要があります。法廷で証明されれば、購入前の保証が有効になり行使されます。
しかし当然、法的対応コストは発生し、場合によっては保証行使で得られる利益よりも法的証明コストの方が上回ってしまう可能性も考慮しなくてはなりません。
また、登録上はNomineeが所有者として登録されているが、”本当の所有者は誰なのか?”という観点から、2018年の9月よりマネーロンダリングや脱税を防ぐ目的で、ベアトラストを用いた不動産所有の際には特定の情報開示、そして法的所有者の開示をしなくてはいけなくなりました。
ベアトラストのメリット
では、ベアトラストのメリットは何かという事になります。
まず1つは、Nomineeを設立することで、法的なタイトルホルダーや法的所有者の所在をそこに集約できるということがあげられます。例えば銀行との融資やテナントとの賃貸契約に関して、法的所有者が複数いた場合と比べるとNomineeを法的所有者にする方が事務的手続きを大幅に簡素化できます。ですから不動産を共同所有する場合は、このストラクチャーは効果的だと言えます。
もう1つはProperty Transfer Taxという土地の譲渡税の免除です。以前はベアトラストを介することによって全体の2〜3%ほどのコストを削減できていましたが、先に申し上げた通り、マネーロンダリングの防止処置から、将来的にはBC州においても他州のように税的メリットが完全になくなる可能性もあります。これについては、今後も注意深く動向を見守っていかなくてはいけません。