このコラムでは、私たちが本社を置くカナダ(ブリティッシュコロンビア州、以後BC州)の投資ストラクチャーの特徴を見てみたいと思います。今回はパートナーシップとJVについてお話しします。
そもそも海外企業がカナダで共同投資する場合、越えなくてはいけないハードルがいくつもあります。法律、税制を理解することはもちろんですが、何より現地の市場で経験を積んだ人材がいるか否かでは、投資運用の成功と失敗を大きく左右します。ですから、現地の市場を熟知している経験豊富な投資家やデベロッパーと共同投資することは、投資家にとって大きなアドバンテージになります。
ダイレクトインベストメントとベアトラストについては「カナダの投資ストラクチャーの話 1」をご覧ください。
目次
1. パートナーシップ
1.1 特徴
1.2 メリット
1.3 デメリット
2. ジョイントベンチャー
2.1 特徴
2.2 パートナーシップとの違い
2.3 メリット
2.4 デメリット
3. さいごに
1. パートナーシップ
カナダでは以下、3種類のパートナーシップが存在します。
・リミテッドパートナーシップ
・ゼネラルパートナーシップ
・有限責任パートナーシップ
カナダの場合、州によって組合法(Partnership Acts)がそれぞれ異なります。ここではブリティッシュコロンビア州(以下、BC州)を基準に見ていきたいと思います。
特徴
各パートナーシップの特徴を簡単に見てみましょう。
(有限責任パートナーシップはより専門的な業種(弁護士、会計士)に好まれる形態のため、本コラムでは割愛します。)
リミテッドパートナーシップ
ゼネラルパートナーシップ
メリット
ここでは不動産投資でよく使われるリミテッドパートナーシップ(以下、組合)を見てみましょう。
組合の組成条件にカナダ居住者であることは含まれていません。ですから海外投資家がゼネラルパートナーもしくはリミテッドパートナーになることは可能ですが、ゼネラルパートナーが個人ではない場合、BC州に登録がある法人または組織である必要があり、新たに組成される組合の登録事業所はBC州である必要があります。ただ、組合のメリットには、現地の経験豊富な投資家もしくはデベロッパーをゼネラルパートナーとすることでプロジェクトの失敗リスクを減らすことができるという点があるので、組合構成員の中に現地市場を熟知している者がいなければこのアドバンテージは活かせません。
また、リミテッドパートナーがカナダ在住の場合には、組合運用で得た利益の一部を個人所得として申告し、所得税を支払います。もしリミテッドパートナーが非居住者である場合は、カナダで一般的には25%の非居住者税を納税する義務があります。ただし、カナダと居住国で租税条約が結ばれていた場合は、納税者が各自申請することで、納税した税金の一部もしくは全額が後日返金される仕組みとなっています。その場合の税率などの詳細は、必ず税理士もしくは会計士にご相談ください。
そしてあなたが投資家(リミテッドパートナー)である場合には、ゼネラルパートナーに運営権限があるため、リミテッドパートナーが日々の細々とした業務に携わる必要がありません。もちろん、運営権こそ持ちませんが、どのように資産が運用されているかの報告を受け、必要であれば説明を要求しアドバイスすることはできます。そして万が一組合で損失が発生した場合でも責任範囲は自身の投資金額が上限となっています。一方、ゼネラルパートナーである場合ですが、無制限責任という経済的リスクを背負う代わりに収益の取り分は大きくなります。
カナダは不動産投資先としてポテンシャルを秘めた非常に魅力的な国ではありますが、特に都市部であるトロントやバンクーバーではすでに土地の価格が非常に高く、建設コストも近年上昇傾向にあります。ですから中〜大規模のプロジェクトを立ち上げるためには、まず潤沢な資金を用意できる能力が必須です。また、COVID-19などの不測の事態によりプロジェクトの中断が余儀なくされた場合にも、それを乗り越える財務的体力が必要です。組合を使って多方面から十分な資金を調達することは、プロジェクト完遂までのリスクヘッジになると考えます。
デメリット
海外居住者でも組合の設立及び構成員になることは可能ですが、「構成員の中にカナダ非居住者が1人でもいる場合は、組合そのものが非カナダ居住者とみなされる」と、過去に弊社を担当している現地会計士が指摘していました。
そして、非居住者がカナダ不動産を売却する際には、非居住者対象の税務手続きを行わなくてはいけません。例えば、非居住者の組合がカナダ不動産を売却し、そこからキャピタルゲインを得る場合には、組合がカナダ歳入庁へ申告する方法と、購入者が申告する方法があります。組合が申告する場合には、カナダ歳入庁が必要とする組合構成員の情報を提供すると同時に、キャピタルゲイン所得を計算してそれに基づいた源泉徴収がかかります。
最終的に投資家へ支払われる配当計算はこれら源泉徴収後の金額ベースになりますので、これにより組合スポンサーとしての投資リターン率は低下し、また行政の税務審査にかかる時間も考えると、スポンサーとしてのパフォーマンスは著しく低下する結果になります。
居住者の要件と、非居住者への税制についてはカナダ歳入庁のホームページからご確認ください。
Canada.ca: Determining your residency status
Canada.ca: T4058 Non-Residents and Income Tax – 2020
2. ジョイントベンチャー
ジョイントベンチャー(以下、JV)とは、2名以上の個人もしくはエンティティが特定のプロジェクトや事業を共同で行うことに合意した形態です。エンティティには法人、組合、信託などが該当し、それらが複数組み合わさる可能性もあります。ですから、JVは独立法人ではなく共有財産を保有する共同事業体といった位置付けになります。
またJVに焦点を置いた法律も現時点のカナダでは存在しないので、法的に定められた手続きはなく、契約法に基づいて運営されます。JVといっても口頭での事業合意もあれば契約書の中で合意する場合もあり、事業の種類、規模も大小様々です。税法上も企業とはみなされないため、収益や損失についても各参加者に帰属し課税されます。
パートナーシップとの違い
リミテッドパートナーシップの場合はゼネラルパートナーが必ず1名おり、事業の運用権利や意思決定権はそこに集中します。一方、JVではメンバーの行動指針、運営権利や利益配分等について記載された契約書に基づいて運営され、機能的決定についても原則は参加者全員の同意が必要です。JVにおいても、特定の参加者が事業運営を委任されて行う場合もありますが、それは全員の同意の上で決定されます。解散についても、パートナーシップが解散されるまで無期限に存続するのに対し、一般的にJVには期限が設けられます。
そして、パートナーシップの最終目的が利益獲得だとすると、JVは必ずしも利益のみを追求する共同体ではありません。例えば宇宙開発研究などは莫大な費用がかかりますが、これについては利益を追求するというよりも、費用を分担し、各々が持つスキルや経験、資源を用いてプロジェクト遂行を効率化させるという目的があります。
責任についてですが、パートナーシップのリミテッド・パートナーの場合は自己出資額を限度とした責務を追います。一方、JV参加者の責任範囲については契約書に共同責任を回避する、つまり参加者の権利、義務、債務などは個々の参加者に帰属するといった条項を規定したり、この共同体がパートナーシップではない=連帯責任を負わないと記載するJVも多いようです。ただし、実際に第三者からの訴訟や紛争が起こった時には、契約書の記載内容にかかわらず裁判所によってパートナーシップとみなされたり、連帯責任を負う義務があると判断された場合にはその裁定に従わなくてはいけません。そして、その責任範囲は無制限責任となります。
メリット
JVの利点の1つは、費用とリスクを他の参加者と分担しながら、新しい市場への参入機会を得られることです。特定のスキルやノウハウを持つ中小零細企業が大手企業とJVを組むことで、中小零細企業にとって本来ならばアクセスできなかった市場へ参入でき、大手企業にとってはスキルセットを吸収する機会になります。もしくは大手競合他社を相手に、その対抗手段としてJVで広告費を負担して大規模な商品サービスのプロモーションを打つこともできます。
また設立に関しても、法的な手続きがないため法人や組合よりも少ない時間と労力で済みます。カナダで共同不動産投資を行う場合には、利益配分の際には参加持分によって配当比率が決まるためとてもシンプルで、配当時期を当事者同士で定めることができるのもメリットです。
デメリット
弊社は不動産を扱っており、以下はその目線から見たデメリットになります。想定投資リターン率が市場平均を超過しており、かつ投資運営を私たちに一任していただいた上で責任持ってプロジェクト遂行にあたったとしても、無制限責任の可能性がある以上、それを投資家に負わせるのは無謀と考えており、JVは考慮不可能なストラクチャーだと考えています。また、設立に関する事務作業が容易だったとしても、連帯責任と無制限責任のリスクを考えると、あえてリスクの高いJVを選ぶ必要性、参加者同士の適合性、そして経済的・財務的信頼度など、考慮するべき点は山ほどあるので、結果的には慎重にならざるを得ません。
3. さいごに
「カナダの投資ストラクチャーの話 1」の内容と合わせて、ダイレクトインベストメント、ベアトラスト、パートナーシップ、ジョイントベンチャーを見てきましたが、それぞれが違う性質があります。そして、ここでお話ししたメリット、デメリットも業種、事業内容やゴールが違えば見方も変わってくるでしょう。全てに共通して言えることは、投資ストラクチャーを考える時には各投資家のリスクレベルに沿ったものを選ぶべきである、ということです。なかには、税金の優遇制度を持つストラクチャーもありますが、それは考慮するべきポイントの1つに過ぎません。投資ストラクチャーはあくまでも手段に過ぎないので、投資プロジェクトを成功へ導くには目的の明確化、目標設定、市場分析、長期的な投資戦略などを検討する必要があります。
今回、このコラムを書くにあたって、筆者にとってもカナダの投資ストラクチャーや税制度について勉強する良い機会になりました。主にカナダ歳入庁のホームページやBC州の組合法などを参考にしましたが、法律や制度は日々変わっているのだなと実感しています。特にマネーロンダリングの規制に向けて法改正が行われていますが、それも言ってしまえばイタチごっこで、もしかしたら半年後にはまた制度が変わっているかもしれません。そしてカナダの場合は州によっても法律が違うので、それらを全て理解してご自身のビジネスリスクを極力抑えるには専門家の助力は不可欠になります。ご縁のある投資家さまには、弊社の信頼する現地の専門家もご紹介できるかと思います。
最後に、このコラムを読んでくださったみなさまの、大切な資産の運用が成功することを願っています。最後までお読みくださり、ありがとうございました。